「はじめに」に著者は記す。わが国近代建築の研究の一つとして、1974年(昭和49)以来、ヴォーリズ建築に関心を持ち、研究に取り組んだと。そして、1989年に『ヴォーリズの建築 ミッション・ユートピアと都市の美』をその研究の成果として上梓した。2008年には、先般ご紹介した『ヴォーリズ建築の100年 恵みの居場所をつくる』を著者は監修している。また、他にもヴォーリズ建築に関する書を出版されている。
では、本書は何か。著者は、上記『ヴォーリズの建築 ミッション・ユートピアと都市の美』を「大幅に増補のうえで改稿、加筆し、代表的な住宅建築を合わせた総論的なヴォーリズ建築書を目指したものである。とはいえ、おおむね先書をもととしているが、近年の情報を補うように努めた。」(p21-22)と記す。いわば、1989年上梓の本にその後の情報と研究を加えたバージョンアップ版と言えるようだ。2018年8月に出版されている。
本書の構成と各章で取り上げて解説されている建築物の項目数を併記しよう。
Ⅰ 湖畔のユートピア ー近江ミッションの建築 12
Ⅱ プロテスタンティズムの花園 -ミッション・スクールの建築 18
Ⅲ ミッションの礎 -キリスト教建築 6
Ⅳ 『吾家の設計』 -洋和融合の住宅建築 4
Ⅴ 都市の華 -商業・オフィスビルの建築 7
尚、この項目もまた、その1項に複数の建築物をまとめて論じているので、実際の建築物件数は多くなる。「あとがき」の後に、参考文献・論文、ヴォーリス年譜、ヴォーリズ建築作品リスト、図版出典一覧、索引が付されている。
まず、作品リスト(p322-331)に触れておこう。作品リストの後に「1906~1957年」と期間が記されている。1957年はヴォーリズが建築活動から離れた年であるとする。ヴォーリズは1964年5月7日に昇天した。
冒頭の解説中に「戦前のヴォーリズの建築作品については、一千数百件余りが知られているが、その中で建築計画も含め、主要なもの600件余りのリストとした。そして、戦後初期における主要な現存建築も加えている」(p322)とある。たぶん、本書のリストが現時点で、ヴォーリズ建築に関心を持つ一般人にとっての最新リストと言えるのではないかと思う。このリストは、建築種別に分類され、年代順リストになっているので便利である。
本書の特色と私が思う点について触れておきたい。
1.Ⅰ~Ⅴの各章において、それぞれの項目は独立した項目として読める。
筆者は本書を探訪記スタイルをベースにして記述している。
2. 各項目においては、その建築の構造と建築様式、建築物の特徴、建築の経緯、所在地、当該建築物の現存の有無などが詳述されている。
読者にとっては目次あるいは索引を利用することで、事典的に特定項目についての情報を得る形で活用しやすい。事典と言えないのは主要作品だけでも全てを網羅しているという訳ではないことによるのだろう。
3.各項目には、1葉から数葉のモノクロ写真が掲載されている。そのサイズは様々であるが、建築物の全体イメージあるいは、特に特徴的な側面をつかむのに役立つ。
4. 項目としては一つにまとめて表記されているものも、その解説は概ね小見出し単位となり、それぞれを独立小項目として読者が参照できる形のまとめになっている。
たとえば、Ⅱ章に掲載の「八幡商業高等学校 豊郷小学校 -和解、そして貢献」という項目では、冒頭に少し説明を加えた後、「八幡商業高等学校」「豊郷小学校」の小見出しでそれぞれが詳述されている。
5.特に代表的な建築物について配置図面、平面図が併載されている。
例えば、私の身近な体験として、感想の一事例を挙げてみよう。京都市に生まれ育ち、四条大橋の鴨川傍に立つ「東華菜館」は見馴れた建物だった。だが中華料理店としての認識しかなかった。建物自体のことをあまり考えたことがなかったし、近江八幡にあるヴォーリズ建築のことを知った学生時代にもそれ以上に意識はしていなかった。既読書でこの東華菜館がヴォーリズが関わった都市の建築物の一例と知った。さらに、本書の「東華菜館 -装飾のごちそう」という項で、このビルが建てられる前の明治期の三階建和風建築の写真を初めて見るとともに、現ビル建築の経緯とこの建物の特徴について具体的な内容を知ることができた。見馴れた建物についてその歴史的な奥行を感じ、改めて建物自体に一歩踏み込んだ興味を抱いている。既読書と併せて、京都市内にも結構な件数のヴォーリス建築があることを再認識した次第である。
本書を手にとられた読者は、意外と比較的身近なところに、ヴォーリズ建築の事例があることを発見されることになるのではないかと思う。
これらの特徴は、本書を通読するという点からすれば、記述パターンがほぼ類型化し、単調な繰り返し感が出てくるということにもつながっていく。いみじくも、著者自身が「はじめに」において、「そのため読み通していただくには多分に冗長な内容になっている」と述べている。通読をしてみてこのニュアンスがわかった。
本書では、目次のページに入る前に、ヴォーリズ建築の中から特に代表的な建築を14ページにわたってカラー写真で掲載している。
いずれにしても、上記の特徴は本書を有益に事典的に利用する強みとなるだろう。
ご一読ありがとうございます。
ヴォーリズ建築に関連して、ネット検索してみた。その一端を一覧にしておきたい。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ :ウィキペディア
Merrell Vories Hitotsuyanagi From Wikipedia, the free encyclopedia
ヴォーリズ建築文化全国ネットワーク ホームページ
ヴォーリズ建築案内
ヴォーリズ記念館 :「滋賀・びわ湖 観光情報」
一粒社ヴォーリズ建築事務所 ホームページ
ヴォーリズの実像 独学重ね、和洋折衷も設計 :「朝日新聞DIGITAL」
[近江八幡]ノスタルジックなヴォーリズ建築を知りたい! :「MAPPLE TRAVEL GUIDE」
GoodSign「近江八幡/ヴォーリズ建築」 YouTube
関西学院(14) :「ヴォーリズを訪ねて」
ヴォーリズ建築を辿る。関西学院大学編 YouTube
ヴォーリズ建築を辿る。神戸女学院大学編 YouTube
ヴォーリズフォーラム神戸女学院見学 第2回ヴォーリズフォーラム大会 YouTube
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらもご一読いただけるとうれしいです。
『ヴォーリズの西洋館 日本近代住宅の先駆』 山形政昭 淡交社
『ヴォーリズ建築の100年 恵みの居場所をつくる』 山形政昭監修 創元社
では、本書は何か。著者は、上記『ヴォーリズの建築 ミッション・ユートピアと都市の美』を「大幅に増補のうえで改稿、加筆し、代表的な住宅建築を合わせた総論的なヴォーリズ建築書を目指したものである。とはいえ、おおむね先書をもととしているが、近年の情報を補うように努めた。」(p21-22)と記す。いわば、1989年上梓の本にその後の情報と研究を加えたバージョンアップ版と言えるようだ。2018年8月に出版されている。
本書の構成と各章で取り上げて解説されている建築物の項目数を併記しよう。
Ⅰ 湖畔のユートピア ー近江ミッションの建築 12
Ⅱ プロテスタンティズムの花園 -ミッション・スクールの建築 18
Ⅲ ミッションの礎 -キリスト教建築 6
Ⅳ 『吾家の設計』 -洋和融合の住宅建築 4
Ⅴ 都市の華 -商業・オフィスビルの建築 7
尚、この項目もまた、その1項に複数の建築物をまとめて論じているので、実際の建築物件数は多くなる。「あとがき」の後に、参考文献・論文、ヴォーリス年譜、ヴォーリズ建築作品リスト、図版出典一覧、索引が付されている。
まず、作品リスト(p322-331)に触れておこう。作品リストの後に「1906~1957年」と期間が記されている。1957年はヴォーリズが建築活動から離れた年であるとする。ヴォーリズは1964年5月7日に昇天した。
冒頭の解説中に「戦前のヴォーリズの建築作品については、一千数百件余りが知られているが、その中で建築計画も含め、主要なもの600件余りのリストとした。そして、戦後初期における主要な現存建築も加えている」(p322)とある。たぶん、本書のリストが現時点で、ヴォーリズ建築に関心を持つ一般人にとっての最新リストと言えるのではないかと思う。このリストは、建築種別に分類され、年代順リストになっているので便利である。
本書の特色と私が思う点について触れておきたい。
1.Ⅰ~Ⅴの各章において、それぞれの項目は独立した項目として読める。
筆者は本書を探訪記スタイルをベースにして記述している。
2. 各項目においては、その建築の構造と建築様式、建築物の特徴、建築の経緯、所在地、当該建築物の現存の有無などが詳述されている。
読者にとっては目次あるいは索引を利用することで、事典的に特定項目についての情報を得る形で活用しやすい。事典と言えないのは主要作品だけでも全てを網羅しているという訳ではないことによるのだろう。
3.各項目には、1葉から数葉のモノクロ写真が掲載されている。そのサイズは様々であるが、建築物の全体イメージあるいは、特に特徴的な側面をつかむのに役立つ。
4. 項目としては一つにまとめて表記されているものも、その解説は概ね小見出し単位となり、それぞれを独立小項目として読者が参照できる形のまとめになっている。
たとえば、Ⅱ章に掲載の「八幡商業高等学校 豊郷小学校 -和解、そして貢献」という項目では、冒頭に少し説明を加えた後、「八幡商業高等学校」「豊郷小学校」の小見出しでそれぞれが詳述されている。
5.特に代表的な建築物について配置図面、平面図が併載されている。
例えば、私の身近な体験として、感想の一事例を挙げてみよう。京都市に生まれ育ち、四条大橋の鴨川傍に立つ「東華菜館」は見馴れた建物だった。だが中華料理店としての認識しかなかった。建物自体のことをあまり考えたことがなかったし、近江八幡にあるヴォーリズ建築のことを知った学生時代にもそれ以上に意識はしていなかった。既読書でこの東華菜館がヴォーリズが関わった都市の建築物の一例と知った。さらに、本書の「東華菜館 -装飾のごちそう」という項で、このビルが建てられる前の明治期の三階建和風建築の写真を初めて見るとともに、現ビル建築の経緯とこの建物の特徴について具体的な内容を知ることができた。見馴れた建物についてその歴史的な奥行を感じ、改めて建物自体に一歩踏み込んだ興味を抱いている。既読書と併せて、京都市内にも結構な件数のヴォーリス建築があることを再認識した次第である。
本書を手にとられた読者は、意外と比較的身近なところに、ヴォーリズ建築の事例があることを発見されることになるのではないかと思う。
これらの特徴は、本書を通読するという点からすれば、記述パターンがほぼ類型化し、単調な繰り返し感が出てくるということにもつながっていく。いみじくも、著者自身が「はじめに」において、「そのため読み通していただくには多分に冗長な内容になっている」と述べている。通読をしてみてこのニュアンスがわかった。
本書では、目次のページに入る前に、ヴォーリズ建築の中から特に代表的な建築を14ページにわたってカラー写真で掲載している。
いずれにしても、上記の特徴は本書を有益に事典的に利用する強みとなるだろう。
ご一読ありがとうございます。
ヴォーリズ建築に関連して、ネット検索してみた。その一端を一覧にしておきたい。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ :ウィキペディア
Merrell Vories Hitotsuyanagi From Wikipedia, the free encyclopedia
ヴォーリズ建築文化全国ネットワーク ホームページ
ヴォーリズ建築案内
ヴォーリズ記念館 :「滋賀・びわ湖 観光情報」
一粒社ヴォーリズ建築事務所 ホームページ
ヴォーリズの実像 独学重ね、和洋折衷も設計 :「朝日新聞DIGITAL」
[近江八幡]ノスタルジックなヴォーリズ建築を知りたい! :「MAPPLE TRAVEL GUIDE」
GoodSign「近江八幡/ヴォーリズ建築」 YouTube
関西学院(14) :「ヴォーリズを訪ねて」
ヴォーリズ建築を辿る。関西学院大学編 YouTube
ヴォーリズ建築を辿る。神戸女学院大学編 YouTube
ヴォーリズフォーラム神戸女学院見学 第2回ヴォーリズフォーラム大会 YouTube
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらもご一読いただけるとうれしいです。
『ヴォーリズの西洋館 日本近代住宅の先駆』 山形政昭 淡交社
『ヴォーリズ建築の100年 恵みの居場所をつくる』 山形政昭監修 創元社