遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『スカーフェイスⅣ デストラップ』  富樫倫太郎   講談社文庫

2022-11-08 15:39:59 | レビュー
 「警視庁特別捜査第三係・淵神律子」シリーズ第4弾! 文庫書き下ろしで、2021年9月に刊行された。
 正式なタイトルは『スカーフェイスⅣ デストラップ 警視庁特別捜査第三係・淵神律子』なのだが、長くなるのでこの標記にとどめた。

 プロローグは、元自衛隊・特殊部隊に所属していた俊数にオペレイターから電話がかかるところから始まる。俊数の妻と子は自宅のリビングで4人の少年により殺害されたた。加害者は当時13歳の少年たちだったので彼等の情報は非公開。民事裁判で慰謝料は得たが、加害者情報は得られなかった。義父と義母は心労で亡くなる。俊数は生前の義母から、義父が加害者たちを見つけて復讐したいと怒っていたことを告白された。俊数は加害者の4人を見つけ出して復讐を誓う。事件から7年が経つ。オペレイターは俊数に尋ねた。「4人の居場所を知りたいか?」と。勿論、俊数は答える。「知りたい」と。
 冒頭からオペレイターが出現する。なぜか。俊数に4人の居場所を教える代わりに、淵神律子を殺すことを取引条件にするからだ。

 本書は3部構成になっている。
 <第1部・消えた少女>は、平成24年(2012)10月15日(月)、オペレイターが淵神律子に電話で、律子と町田惠子、藤平保を処刑リストに載せたと通告してきたところから始まる。
 警視庁の地下にある第17保管庫で、藤平が電話の録音を解析しているところに、第三係所属で、来年、定年退職予定の坂東雄治が相談事持ちかけて来る。船橋市にある児童養護施設の石峰薫子園長からの頼み事だった。それは、市川のパン屋で働く鷺沢鈴音という少女が面談日に現れず園長宛の手紙を残して消えた。その少女を探してほしいという。板東はその学園とボランティア活動で繋がりがあり、鈴音のことも良く知っていたのだ。坂東自身も鈴音の失踪を心配している。
 律子と藤平はこの捜索を引き受ける。その仕事は退庁後のオフタイムに取り組むことになる。ストーリーがどのように展開するのか。先が読めないところがまずおもしろい。
 
 鈴音の勤め先での聞き込みから始まる。捜査の定石。パン屋さんでの鈴音の同僚から、彼女が夜の仕事を始めていたことを知る。同僚は家族のための金に困っていたと聞いた。そして、かつて同じパン屋で働いていて水商売に転職している石川沙緒里を紹介したと。鈴音のアパートを確認に行った際、一台の車がアパ-トを見張っていることに気づく。鈴音は深刻な問題を抱えていそうに思われる。
 沙緒里は鈴音に歌舞伎町の外れにあるキャバクラ「キャットウォーク」を紹介していた。鈴音はその「キャットウーク」でほぼ1ヵ月働いて辞めてしまったという。
 律子たちは、鈴音が児童養護施設に入る原因になった鈴音の元の家族の家も聞き込みに行く。徐々に、鈴音に関わる情報が増えていく。

 一方、鈴音は20歳の桐野令市と都内で逃走していた。令市の友人、金村雅彦(20歳)の西新宿のマンションに行く。金村は闇金業者。彼等3人はイタリアン・レストランにて夕食の予定だったが、一旦部屋に戻った金村が何者かに殺害されてしまう。レストランに現れない金村。マンションに戻った鈴音と令市は、その場からあてどなく立ち去らざるを得なくなる。なぜ金村が殺害されたのかもわからぬままに。

 失踪中の鈴音の周りで最初の殺害事件が発生した。読者には殺害者が誰かが明らかな形で事態が進行する。それはオペレイターから金村の住所を知った俊数の復讐の始まり。

 そして、<第2部・プリンクラブ>に入って行く。
 金村の死体発見から始まる。警察の殺人事件の捜査が開始されることに。
 
 このストーリーでは、5つのサブストーリーがパラレルに進行していくことになる。
1.鷺沢鈴音の失踪を追跡捜査する律子と藤平の行動。それを特別捜査第三係の円浩爾と依頼人の坂東がサポートする。
2.鷺沢鈴音と桐野令市の逃走劇。彼等が潜伏しようとする行動、その場所で事件が発生場所していく。二人には皆目訳がわからない。怖れの中で逃走ストーリーが展開する。
 彼等はなぜ、誰から逃げているのか。なぜ友人たちが殺されるのか。
3.オペレイターから順次情報を入手することで俊数は一つ一つ復讐を遂行していく。
 オペレイターは、俊数に取引条件を出していた。それは淵神律子の抹殺である。
 オペレイターと俊数の暗黙のペアが、どの段階でどのような動きをとっていくのか
4.鈴音と令市のペアを追跡する者の存在。それは、勿論二人の逃走に直結する理由に関係する。その理由は何か。誰が関わっているのか。プリンクラブと称される組織がそこに浮かび上がってくる。
5.次々に発生する事件。警察はそれぞれの事件の捜査を個別に進めて行くことになる。
 このストーリーでは、警察の捜査活動は、半ば捜査の進展情報という形で、背景行動として、組み込まれて行く。金村が殺害されたマンションに鈴音の指紋が残されていた。それが一つの接点となっていく。
 また、律子と藤平は正式な捜査に関わるよう指示されるステップに移っていく。
 プロローグで登場した俊数が、堂林俊数と判明するのも、事件発生後の捜査過程からだった。

 第2部はいわば、それぞれのサブストーリーの状況を別個にあきらかにしていくステージでもある。律子と藤平は、沙緒里への聞き込みを重ねて、鈴音が「キャットウォーク」からガールズバーのような「プリンクラブ」に移ったということを知る。沙緒里は言葉を濁したが、その「プリンクラブ」は怖い店だと言う。

 <第3部・ジュピター>
 サブストーリーの個々の進展が、相互に交わりを見せ、合流し、一つの空間での闘いに集約されて行く。事件の解決に至る最終ステージが凄まじい。異なる理由・意図を持つ者たちが、正に三つ巴となり、争闘を行うことになる。
 葉山のマリーナに近いところにある二階建洋館の豪邸、ボートハウスと呼ばれる建物が大団円の舞台となっていく。

 なかなかおもしろいストーリー構成になっている。
 オペレイターは警察情報に容易にアクセスできる人間とうことは、今回のプロセスからあきらかである。だが、オペレイターはどこにいる何者なのか。今回もその点には肉迫できずに終わった。ということは、このシリーズ、さらに続くということだろう。第5弾を期待しよう。

 ご一読ありがとうございます。

徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『スカーフェイスⅢ ブラッドライン 警視庁特別捜査第三係・淵神律子』 講談社文庫
『スカーフェイスⅡ デッドリミット 警視庁特別捜査第三係・淵神律子』 講談社文庫
『スカーフェイス 警視庁特別捜査第三係・淵神律子』 幻冬舎
『早雲の軍配者』 中央公論新社
『信玄の軍配者』 中央公論新社
『謙信の軍配者』 中央公論新社

『決戦! 大坂城』 葉室・木下・富樫・乾・天野・冲方・伊東  講談社