先日、万能鑑定士Qシリーズの読み残し本に気づいたとき、他にも・・・と思い検索してみた。特等添乗員αシリーズでも読み残しが2冊あることに気づいた。その1冊がこれ。書き下ろしαシリーズの第5弾として、平成26年(2014)年2月に刊行されていた。
さらに、第6弾が2021年に既に刊行されているのを知った次第。
主人公は朝倉絢奈(あやな)22歳。新宿西口にある添乗員派遣を扱う株式会社クオンタムに勤め、特等添乗員にランクされている業績優秀な派遣添乗員である。彼女は、閃きの小悪魔と周りから称され、ラテラル・シンキングに超秀でている。閃き思考で数々の事件を添乗業務の合間に解決してきていた。このシリーズは絢奈のラテラル・シンキングによる難事件解決譚である。
本書の特徴は、主要な事件発生・進展の流れの中で、付帯的小事件や偶発的なエピソードなどが様々にショート・ストーリーとして織り込まれながら、全体が進行するところにある。付帯的小事件やエピソードがその都度即座に解決されながら、メインとなる事件の解決へとステップ・アップしていく。ストーリー展開のテンポの速さが読者としてはうれしい。軽快さが先へ先へと読み継がせていく。
本書では、絢奈と元・官房長官の息子・壱条那沖(いちじょうなおき)との結婚が間近に控えていて、二人が武蔵小杉に新居物件を見つけて、その新居に入居するまでの紆余曲折のプロセスがストーリーの底流として描かれる。
それとパラレルに2つのストーリーが重層的に進行する。
一つは、鮫島運輸の代表取締役兼最高経営責任者、鮫島俊学のひとり息子・鮫島基成が絢奈に関心を抱き、絢奈を妻にしたいと言う思いから始まるストーリー。妻に愛想を尽かされ離婚した俊学はこの息子に負い目があり、基成の思いを成就させたいと思う。鮫島俊学は、運輸業界の大物という表の顔を持つが、裏で暴力団のネットワークを動かし、シンジケートを取りまとめている。海外留学経験があり30歳過ぎの基成は、師闇牙会の久世高志が逮捕され刑務所送りになった背景に絢奈が関与していたことを知り、絢奈に関心を寄せたという。
このストーリーは、武蔵小杉で新居を探す絢奈と那沖が、早朝に駐車場での自動車泥棒の現場を押さえるという小事件に関わることがきっかけになっていく。この小事件は鮫島のシンジケートに関係する。外形的には俊学が基成のために、シンジケートに加入する暴力団に基成と絢奈の出会い工作を依頼するという側面で進展していく。この出会い工作のために、次々に引き起こされる事件が、コミカルでおもしろい、言わばショート・ストーリーの連なりとなって、事態が進展していく。簡略に各小事件について列挙しておこう。絢奈のラテラル・シンキングでそれぞれの事件が個別に解決に導かれていく。ストーリーの進行テンポが軽快になり、次は何? と期待させる。
*特急ワイドビューふじかわ6号車内でのスリ多発事件
*丸ノ内線新宿三丁目駅ホームで聞こえた劇場立て籠もり事件の噂話
*海浜公園でのコンサートチケット紛失騒動
*ビル3階から肘掛け椅子が黒塗りセダンに落下激突する騒動
*西新宿交差点での絢奈拉致事件
様々な小事件が連続していくが、最後は俊学・基成親子が絢奈に対し直接行動に出る。その結果は意外な展開となる。この落とし所がおもしろい。
もう一つはクオンタム社内での問題。添乗員たちの間はいくつかの派閥に分かれている。その中で、浜宮絵梨子が煽動して事務所内で絢奈を孤立させ、できれば辞めさせようと画策する。絢奈はシカトされる立場に投げ込まれる。その雰囲気を感じ、落ち込む絢奈がこの事態にどう対処していくか。絵梨子には壱条那沖をほのかに慕っている思いがあった。絵梨子は煽動するだけでなく、絢奈をを陥れるための小細工まで行う。
絢奈が孤立無援からどのように脱却し、状況を打開し問題解決していくかが読ませどころとなる。
絢奈の外側で発生しそれに巻き込まれる形で関わる事件と、絢奈の心と生き方に関わる相対的に絢奈の内心を扱う事件とが重層化されて進行するという興味深い設定になっている。
さらに、冒頭から随時様々なフェーズで間奏曲的にミニ・エピソードが織り込まれて行く。これはストーリーへの導入あるいはちょっとした気分転換という点で一種の潤滑油になっている。本書の冒頭は、まず那沖の送迎運転手・能登廈人(いえと)による絢奈へのレクチャーから始まる。その後に織り込まれるミニ・エピソードについて簡略に触れておこう。どこで、どのように織り込まれるかを楽しんでいただきたい。
*絢奈が姉乃愛(のあ)の酒好きを諫める
*早朝の空いている電車での寒さ回避策
*水飲み場の蛇口に掲げてある”大人用”と”子供用”の札
*姉の抱える難題へのアドバイス
*東京駅構内での集合場所(首相暗殺現場)の勘違い事象
*駅ホームでの迷子問題
これらは、絢奈のラテラル・シンキングの応用エピソード集のようなものである。読者にとってはストーリーが同時進行する流れの中で気分転換に誘い込まれる小咄といえる。これらが巧みにストーリーに沿って織り込まれているので、違和感を感じさせない。ちょっとした小咄として使えるネタにもなるだろう。
今回のストーリーで、絢奈と那沖は入籍前から武蔵小杉の新居暮らしを始めることになる。そこで終わらせないところがおもしろい。絢奈は添乗業務を継続するのである。そして、本書の最後は、ヨルダンにある死海への添乗業務シーンが描き込まれる。そこで閃きの小悪魔が本領を発揮する。このオチがおもしろい。エンターテインメント性に溢れた「人の死なないミステリ小説」である。
末尾の一文を記しておこう。
「出会った人を正しい行き先に導くのが、添乗員の仕事だもん。閃きの小悪魔に引退なし」
既に第6弾が7年ぶりに刊行されていた。その後も続きそう。読みつなぐ楽しみができた。
ご一読ありがとうござます。
本書に関連して、関心事項をいくつか検索してみた。一覧にしておきたい。
ラテラルシンキングとは?ロジカルシンキングとの違いとビジネスに活かす具体的な方法とは
:「MarkeTRUNK」
ラテラルシンキングとは|水平思考の鍛え方と成功事例|例題有:「Mission Driven Brand」
思考力の使い方~クリティカル・ラテラル・ロジカルシンキング入門 :「insource」
エドワード・デボノ :ウィキペディア
「(特急)ふじかわ6号」前面展望「身延線・東海道線」(甲府-静岡)全区間「373系」[字幕][4K] YouTube
東京 都心で気軽に夏を満喫できる海の見える公園7選! :「aumo」
お台場海浜公園 :「360@旅行ナビ」
死海 :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『万能鑑定士Qの事件簿0』 角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅲ クローズド・サークル』 角川書店
『千里眼の死角 完全版』 角川文庫
『小説家になって億を稼ごう』 松岡圭祐 新潮新書
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅳ シンデレラはどこに』 角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅱ』 角川文庫
松岡圭祐の作品 読後印象記掲載リスト ver.3 総計45冊 2022.9.27時点
さらに、第6弾が2021年に既に刊行されているのを知った次第。
主人公は朝倉絢奈(あやな)22歳。新宿西口にある添乗員派遣を扱う株式会社クオンタムに勤め、特等添乗員にランクされている業績優秀な派遣添乗員である。彼女は、閃きの小悪魔と周りから称され、ラテラル・シンキングに超秀でている。閃き思考で数々の事件を添乗業務の合間に解決してきていた。このシリーズは絢奈のラテラル・シンキングによる難事件解決譚である。
本書の特徴は、主要な事件発生・進展の流れの中で、付帯的小事件や偶発的なエピソードなどが様々にショート・ストーリーとして織り込まれながら、全体が進行するところにある。付帯的小事件やエピソードがその都度即座に解決されながら、メインとなる事件の解決へとステップ・アップしていく。ストーリー展開のテンポの速さが読者としてはうれしい。軽快さが先へ先へと読み継がせていく。
本書では、絢奈と元・官房長官の息子・壱条那沖(いちじょうなおき)との結婚が間近に控えていて、二人が武蔵小杉に新居物件を見つけて、その新居に入居するまでの紆余曲折のプロセスがストーリーの底流として描かれる。
それとパラレルに2つのストーリーが重層的に進行する。
一つは、鮫島運輸の代表取締役兼最高経営責任者、鮫島俊学のひとり息子・鮫島基成が絢奈に関心を抱き、絢奈を妻にしたいと言う思いから始まるストーリー。妻に愛想を尽かされ離婚した俊学はこの息子に負い目があり、基成の思いを成就させたいと思う。鮫島俊学は、運輸業界の大物という表の顔を持つが、裏で暴力団のネットワークを動かし、シンジケートを取りまとめている。海外留学経験があり30歳過ぎの基成は、師闇牙会の久世高志が逮捕され刑務所送りになった背景に絢奈が関与していたことを知り、絢奈に関心を寄せたという。
このストーリーは、武蔵小杉で新居を探す絢奈と那沖が、早朝に駐車場での自動車泥棒の現場を押さえるという小事件に関わることがきっかけになっていく。この小事件は鮫島のシンジケートに関係する。外形的には俊学が基成のために、シンジケートに加入する暴力団に基成と絢奈の出会い工作を依頼するという側面で進展していく。この出会い工作のために、次々に引き起こされる事件が、コミカルでおもしろい、言わばショート・ストーリーの連なりとなって、事態が進展していく。簡略に各小事件について列挙しておこう。絢奈のラテラル・シンキングでそれぞれの事件が個別に解決に導かれていく。ストーリーの進行テンポが軽快になり、次は何? と期待させる。
*特急ワイドビューふじかわ6号車内でのスリ多発事件
*丸ノ内線新宿三丁目駅ホームで聞こえた劇場立て籠もり事件の噂話
*海浜公園でのコンサートチケット紛失騒動
*ビル3階から肘掛け椅子が黒塗りセダンに落下激突する騒動
*西新宿交差点での絢奈拉致事件
様々な小事件が連続していくが、最後は俊学・基成親子が絢奈に対し直接行動に出る。その結果は意外な展開となる。この落とし所がおもしろい。
もう一つはクオンタム社内での問題。添乗員たちの間はいくつかの派閥に分かれている。その中で、浜宮絵梨子が煽動して事務所内で絢奈を孤立させ、できれば辞めさせようと画策する。絢奈はシカトされる立場に投げ込まれる。その雰囲気を感じ、落ち込む絢奈がこの事態にどう対処していくか。絵梨子には壱条那沖をほのかに慕っている思いがあった。絵梨子は煽動するだけでなく、絢奈をを陥れるための小細工まで行う。
絢奈が孤立無援からどのように脱却し、状況を打開し問題解決していくかが読ませどころとなる。
絢奈の外側で発生しそれに巻き込まれる形で関わる事件と、絢奈の心と生き方に関わる相対的に絢奈の内心を扱う事件とが重層化されて進行するという興味深い設定になっている。
さらに、冒頭から随時様々なフェーズで間奏曲的にミニ・エピソードが織り込まれて行く。これはストーリーへの導入あるいはちょっとした気分転換という点で一種の潤滑油になっている。本書の冒頭は、まず那沖の送迎運転手・能登廈人(いえと)による絢奈へのレクチャーから始まる。その後に織り込まれるミニ・エピソードについて簡略に触れておこう。どこで、どのように織り込まれるかを楽しんでいただきたい。
*絢奈が姉乃愛(のあ)の酒好きを諫める
*早朝の空いている電車での寒さ回避策
*水飲み場の蛇口に掲げてある”大人用”と”子供用”の札
*姉の抱える難題へのアドバイス
*東京駅構内での集合場所(首相暗殺現場)の勘違い事象
*駅ホームでの迷子問題
これらは、絢奈のラテラル・シンキングの応用エピソード集のようなものである。読者にとってはストーリーが同時進行する流れの中で気分転換に誘い込まれる小咄といえる。これらが巧みにストーリーに沿って織り込まれているので、違和感を感じさせない。ちょっとした小咄として使えるネタにもなるだろう。
今回のストーリーで、絢奈と那沖は入籍前から武蔵小杉の新居暮らしを始めることになる。そこで終わらせないところがおもしろい。絢奈は添乗業務を継続するのである。そして、本書の最後は、ヨルダンにある死海への添乗業務シーンが描き込まれる。そこで閃きの小悪魔が本領を発揮する。このオチがおもしろい。エンターテインメント性に溢れた「人の死なないミステリ小説」である。
末尾の一文を記しておこう。
「出会った人を正しい行き先に導くのが、添乗員の仕事だもん。閃きの小悪魔に引退なし」
既に第6弾が7年ぶりに刊行されていた。その後も続きそう。読みつなぐ楽しみができた。
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エドワード・デボノ :ウィキペディア
「(特急)ふじかわ6号」前面展望「身延線・東海道線」(甲府-静岡)全区間「373系」[字幕][4K] YouTube
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お台場海浜公園 :「360@旅行ナビ」
死海 :ウィキペディア
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その点、ご寛恕ください。)
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『万能鑑定士Qの事件簿0』 角川文庫
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松岡圭祐の作品 読後印象記掲載リスト ver.3 総計45冊 2022.9.27時点