カガリの目が点になる。だってフレイの持っているものはどう見ても
「ひ、ひ、ひ・・・・・・・・・ひも?」
「どこに目が付いてるのよ、アンタは!よく見なさい!ただの『バンドゥ・ビキニ』でしょうが!」
『ビキニ』!?これが!?!? どこからどう見たって紐のような心細い僅かな布切れにしか見えない。
「アンタ、自分じゃ自覚なさそうだけど、結構いいプロポーションしているんだから、これくらいつけても罰が当たんないわよ! これで彼氏の一人や二人、瞬殺できるわよ。」
フレイがカガリの胸元に押し付けてくる。間近でよく見れば、いわゆるネックホルダーや肩紐すらついていない。明らかにバストのボリュームだけで形状を保持するタイプだ。しかも下の方だって、ウエストはちょこっと紐で結ばれているだけ。ビキニラインを見ただけで、同性が着けるものであっても、カガリの顔どころか全身が一気にゆであがる。
「嫌だぁぁぁーーーーーっ!!」
「往生際が悪いわよ!早く試着して見なさい!」
人目もはばからず、店頭で戦う姿に流石のミリアリアも黙って観戦しているわけにはいかなくなった。
「え~っと、フレイ・・・流石にまだ私たち高校生だし、そこまで過激なのじゃなくっても、例えば・・・こういうのとかどう?」
淡い緑のストライプの入ったタンキニを取り出してみる。カガリとフレイが一瞬手を止めてミリアリアの仲介に耳を傾けるが。
「却下。」
「なんでぇぇ???」
無論最初のセリフはフレイ、悲鳴はカガリだ。
「『タンキニ』なんて、折角のプロポーション隠すなんてもったいないだけじゃない。いいことカガリ。ナイスボディは年齢とともに相当気合い入れていかないと崩れていくもんなんだから、見せられる・・・ううん、魅せられるうちに見せておかないと、絶対後悔するわよ。」
「そんなことないもん!人様の前でこんなは、は、肌露出するなんて、そっちの方が後悔するもん!///」
鬼の形相のフレイに対し、真っ赤になって目を潤ませながら逃げるカガリ。
ミリアリアは今更ながら改めて不思議に思いつつ二人を見比べた。
美しさに絶対の価値を持ち、異性の目を引きたがるフレイと、美しさには全く無関心。異性も同性も「人類みな同じ!」のカガリ。・・・本当に価値観が真逆の二人が、どうして親友やれているんだろう。最初は『お嬢様同士』ということもあって、どことなく通じるものを感じたか、あるいは一般人のミリアリアにはわからない、『家柄で釣り合う者同士が付き合う』という、お嬢様学校特有の価値観かと思ったけど。でもそれだけでは、こんな深入りするところまではいかないだろうし。
なんというか・・・ミリアリアから見ると、この二人は『友人』というより『姉妹』のカテゴリーに似ている気がする。強気で上からたたみかける(ちょっと価値観押し付けすぎなところもあるけど)姉タイプのフレイと、無邪気で無垢で、姉の言うことを素直に受け入れる妹タイプのカガリ。相手と張り合うという感覚がこの二人の間には成立していないから、それが上手く歯車がかみ合っているんだと思う。うん、きっとそうなんだろうな。そう思うと、この一見無駄(?)な争いも姉妹ゲンカの末のスキンシップと思えば微笑ましい感じがするし。
と、ミリアリアが想像している間に、水着の押し付け合いだった二人の息が切れてきた。このままではミリィ曰く「姉の尊厳」を維持しようとするフレイにとっては分が悪い。
そう判断したのか、フレイがカガリに最終兵器を打ち放った。
「あ~あ。折角そのビキニだったら、絶対ザラ君も喜ぶかと思ったんだけどなぁ~。ま、アンタじゃだめなら、アタシが見せてあげてもいいけれど。ザラ君にv」
<ドキン!>
カガリの心臓が一気に高鳴り、琥珀がその色を濃くたたえて見開く。
(・・・『アスラン』が・・・『喜ぶ』・・・?)
一瞬俯きかけたカガリが、ハッと顔を上げれば、フレイは自身の投下した最終兵器の威力に不適の笑みを浮かべ、バンドゥビキニをひらひらとちらつかせている。
「その・・・そのビキニなら、アスラン・・・喜ぶ・・・のか?」
(―――「決まったv」)
勝利を決めたフレイが、高々と宣言する。
「モチよ!ザラ君だって男だもの。彼女の色っぽい姿を見たら、喜んで惚れ直すに決まっているじゃない」
「じゃぁ着る!」
カガリはフレイから水着をふんだくった。
「試着室はあっちよ。他にもいくつかセパレートして持って行ってあげるから、アンタは着替えてなさい♪」
「うん!」
『姉妹』から一気に『飼い主と忠犬』になった感じはするが、これが2人の上手く友情を続けている形なのだと思えば、ミリアリアも笑うしかない。
「全く、ザラ君に色仕掛けなんてしないでしょ、フレイは。」
「そりゃカガリの彼氏だもん。いくら男性の視線を集めてやまないアタシだって、友達の彼氏を奪うなんてことはしないわ。ただ、カガリにちょっとイラってくるのよ。鈍すぎるから。」
あ、姉の横顔だ。フレイを見やってミリアリアは苦笑する。姉妹ゲンカに口を出す気はないが、あまり姉がし放題だと妹が可哀想になるので、ちょっとだけお灸をすえとかなきゃ。
「でも、そんなに焦らせることないじゃない。真面目なザラ君と晩熟のカガリだもの。そんなに急がせないで、もうちょっと穏やかに見守って―――」
「ダメなのよ、焦らなきゃ!でないと・・・」
フレイの厳しい口調に遮られて、ミリアリアが驚き改めてフレイを見やる。
と、ミリアリアは目を見張った。
その横顔は姉ではなく、何かミリアリアの遠く及ばないところで不安を抱える、真剣な眼差しだったから。
そして、フレイのその時の表情の意味を、ミリアリアが、そしてカガリ自身が思い知ることになるのは、もう少し先のこと―――
***
「いけません!」
「なんで!?」
まさか、こんな強敵が立ちはだかるとは思わなかった。
アスランの別荘に遊びに行きたい・・・そう父とマーナに告げた時、真っ先にカガリの眼前で仁王立ちして真向否定したのはマーナの方だった。
「いいのではないか?カガリももう来年は高校卒業だし、友達との思い出を作ることは大事だろう。」
「いーえ!旦那様は甘すぎます!」
食後のコーヒーより苦みが効いたマーナの口調に、流石のウズミも閉口する。
「仮にも由緒正しきアスハ家の御令嬢が、お友達とはいえ男性の家に行くなんて!大事なお嬢様にもしもの・・・もしものことがあったら、このマーナ、どうやってお詫びしたらいいか・・・」
「まぁまぁ、ザラ家の御嫡男とは以前パーティでお会いしたことがあるが、若いのに真面目で紳士的だ。カガリを傷つけるようなことはとてもしないと思うが・・・」
「旦那様っ!!父親自ら娘を野獣の群れに放るような真似をなさるなんて、御情けないっ!」
(野獣の群れって・・・アスランは一人だけなんだけど・・・その前に、「間違い」ってなんだ?)
エプロンの裾でゴシゴシと涙をふくマーナを不思議そうに眺めるカガリ。いつも心配させ通しのマーナに泣かれると辛い。・・・だが、ここで諦めたら、折角アスランが誘ってくれたのだ。その気持ちを無下にすることはできない。
「大丈夫だったら。以前家に連れてきたとき、マーナだってアスランに会ってるだろ?「いいお友達ができてよかったですね」って言ってくれたじゃないか。」
「でも、ただ御屋敷に来られるのと、お泊りでは、全然違います!」
「まぁまぁ・・・あちらも重鎮の『ザラ家』だ。家に醜聞となるようなことはしないだろうよ。楽しんでおいで。」
「ありがとうございます!お父様。」
家長の一声、というよりアスハ親子のタッグ勝ちだ。しかし、マーナとて簡単に勝利を譲るわけにはいかない。
「・・・わかりました。しかしながらお嬢様。」
「え?」
喜びに緊張を無くしたカガリに、マーナは燃えるような圧倒的なオーラでカガリを威圧した。
「このマーナ。今回のご旅行には『条件』を出させていただきます!」
***
その日、アスランは大きめの自家用送迎車を横づけにした学院の前で、校門前に続く坂道を見守っていた。
登校の時、いつもカガリが駆けあがってくる、あの坂道だ。
<楽しみにしてる>
そういって、誘いを受けてくれた日の夜は嬉しさのあまり寝付けなかった。
カガリと二人きりになれるたことはあるにはあったが、こうして一日中彼女を独占できるのは、今回が初めてだ。
二人きりのビーチ・・・二人きりの食事・・・そして、それから・・・
一日中思いをはせても飽き足りない。翡翠の奥に彼女の笑みを浮かべていたその時だった。
「おーい、アスラーン。」
(来た!)
「カガリ、おはよ―――」
言いかけた翡翠に、とんでもないものが映って、アスランは絶句した。
・・・続く(かな?)
***
てなことで、思い付きのSS2話目です。
果たしてアスランが見たものは、なんでしょう??え、え絶句しちゃうほど、とんでもないものです(笑) 予想はつくかと思いますが。
で、続き書くのかな、かもしたさん。夏休み期間中に終わる気配がしないのですが、まぁ秋になっても残暑ということで、書けたらよいな。
「ひ、ひ、ひ・・・・・・・・・ひも?」
「どこに目が付いてるのよ、アンタは!よく見なさい!ただの『バンドゥ・ビキニ』でしょうが!」
『ビキニ』!?これが!?!? どこからどう見たって紐のような心細い僅かな布切れにしか見えない。
「アンタ、自分じゃ自覚なさそうだけど、結構いいプロポーションしているんだから、これくらいつけても罰が当たんないわよ! これで彼氏の一人や二人、瞬殺できるわよ。」
フレイがカガリの胸元に押し付けてくる。間近でよく見れば、いわゆるネックホルダーや肩紐すらついていない。明らかにバストのボリュームだけで形状を保持するタイプだ。しかも下の方だって、ウエストはちょこっと紐で結ばれているだけ。ビキニラインを見ただけで、同性が着けるものであっても、カガリの顔どころか全身が一気にゆであがる。
「嫌だぁぁぁーーーーーっ!!」
「往生際が悪いわよ!早く試着して見なさい!」
人目もはばからず、店頭で戦う姿に流石のミリアリアも黙って観戦しているわけにはいかなくなった。
「え~っと、フレイ・・・流石にまだ私たち高校生だし、そこまで過激なのじゃなくっても、例えば・・・こういうのとかどう?」
淡い緑のストライプの入ったタンキニを取り出してみる。カガリとフレイが一瞬手を止めてミリアリアの仲介に耳を傾けるが。
「却下。」
「なんでぇぇ???」
無論最初のセリフはフレイ、悲鳴はカガリだ。
「『タンキニ』なんて、折角のプロポーション隠すなんてもったいないだけじゃない。いいことカガリ。ナイスボディは年齢とともに相当気合い入れていかないと崩れていくもんなんだから、見せられる・・・ううん、魅せられるうちに見せておかないと、絶対後悔するわよ。」
「そんなことないもん!人様の前でこんなは、は、肌露出するなんて、そっちの方が後悔するもん!///」
鬼の形相のフレイに対し、真っ赤になって目を潤ませながら逃げるカガリ。
ミリアリアは今更ながら改めて不思議に思いつつ二人を見比べた。
美しさに絶対の価値を持ち、異性の目を引きたがるフレイと、美しさには全く無関心。異性も同性も「人類みな同じ!」のカガリ。・・・本当に価値観が真逆の二人が、どうして親友やれているんだろう。最初は『お嬢様同士』ということもあって、どことなく通じるものを感じたか、あるいは一般人のミリアリアにはわからない、『家柄で釣り合う者同士が付き合う』という、お嬢様学校特有の価値観かと思ったけど。でもそれだけでは、こんな深入りするところまではいかないだろうし。
なんというか・・・ミリアリアから見ると、この二人は『友人』というより『姉妹』のカテゴリーに似ている気がする。強気で上からたたみかける(ちょっと価値観押し付けすぎなところもあるけど)姉タイプのフレイと、無邪気で無垢で、姉の言うことを素直に受け入れる妹タイプのカガリ。相手と張り合うという感覚がこの二人の間には成立していないから、それが上手く歯車がかみ合っているんだと思う。うん、きっとそうなんだろうな。そう思うと、この一見無駄(?)な争いも姉妹ゲンカの末のスキンシップと思えば微笑ましい感じがするし。
と、ミリアリアが想像している間に、水着の押し付け合いだった二人の息が切れてきた。このままではミリィ曰く「姉の尊厳」を維持しようとするフレイにとっては分が悪い。
そう判断したのか、フレイがカガリに最終兵器を打ち放った。
「あ~あ。折角そのビキニだったら、絶対ザラ君も喜ぶかと思ったんだけどなぁ~。ま、アンタじゃだめなら、アタシが見せてあげてもいいけれど。ザラ君にv」
<ドキン!>
カガリの心臓が一気に高鳴り、琥珀がその色を濃くたたえて見開く。
(・・・『アスラン』が・・・『喜ぶ』・・・?)
一瞬俯きかけたカガリが、ハッと顔を上げれば、フレイは自身の投下した最終兵器の威力に不適の笑みを浮かべ、バンドゥビキニをひらひらとちらつかせている。
「その・・・そのビキニなら、アスラン・・・喜ぶ・・・のか?」
(―――「決まったv」)
勝利を決めたフレイが、高々と宣言する。
「モチよ!ザラ君だって男だもの。彼女の色っぽい姿を見たら、喜んで惚れ直すに決まっているじゃない」
「じゃぁ着る!」
カガリはフレイから水着をふんだくった。
「試着室はあっちよ。他にもいくつかセパレートして持って行ってあげるから、アンタは着替えてなさい♪」
「うん!」
『姉妹』から一気に『飼い主と忠犬』になった感じはするが、これが2人の上手く友情を続けている形なのだと思えば、ミリアリアも笑うしかない。
「全く、ザラ君に色仕掛けなんてしないでしょ、フレイは。」
「そりゃカガリの彼氏だもん。いくら男性の視線を集めてやまないアタシだって、友達の彼氏を奪うなんてことはしないわ。ただ、カガリにちょっとイラってくるのよ。鈍すぎるから。」
あ、姉の横顔だ。フレイを見やってミリアリアは苦笑する。姉妹ゲンカに口を出す気はないが、あまり姉がし放題だと妹が可哀想になるので、ちょっとだけお灸をすえとかなきゃ。
「でも、そんなに焦らせることないじゃない。真面目なザラ君と晩熟のカガリだもの。そんなに急がせないで、もうちょっと穏やかに見守って―――」
「ダメなのよ、焦らなきゃ!でないと・・・」
フレイの厳しい口調に遮られて、ミリアリアが驚き改めてフレイを見やる。
と、ミリアリアは目を見張った。
その横顔は姉ではなく、何かミリアリアの遠く及ばないところで不安を抱える、真剣な眼差しだったから。
そして、フレイのその時の表情の意味を、ミリアリアが、そしてカガリ自身が思い知ることになるのは、もう少し先のこと―――
***
「いけません!」
「なんで!?」
まさか、こんな強敵が立ちはだかるとは思わなかった。
アスランの別荘に遊びに行きたい・・・そう父とマーナに告げた時、真っ先にカガリの眼前で仁王立ちして真向否定したのはマーナの方だった。
「いいのではないか?カガリももう来年は高校卒業だし、友達との思い出を作ることは大事だろう。」
「いーえ!旦那様は甘すぎます!」
食後のコーヒーより苦みが効いたマーナの口調に、流石のウズミも閉口する。
「仮にも由緒正しきアスハ家の御令嬢が、お友達とはいえ男性の家に行くなんて!大事なお嬢様にもしもの・・・もしものことがあったら、このマーナ、どうやってお詫びしたらいいか・・・」
「まぁまぁ、ザラ家の御嫡男とは以前パーティでお会いしたことがあるが、若いのに真面目で紳士的だ。カガリを傷つけるようなことはとてもしないと思うが・・・」
「旦那様っ!!父親自ら娘を野獣の群れに放るような真似をなさるなんて、御情けないっ!」
(野獣の群れって・・・アスランは一人だけなんだけど・・・その前に、「間違い」ってなんだ?)
エプロンの裾でゴシゴシと涙をふくマーナを不思議そうに眺めるカガリ。いつも心配させ通しのマーナに泣かれると辛い。・・・だが、ここで諦めたら、折角アスランが誘ってくれたのだ。その気持ちを無下にすることはできない。
「大丈夫だったら。以前家に連れてきたとき、マーナだってアスランに会ってるだろ?「いいお友達ができてよかったですね」って言ってくれたじゃないか。」
「でも、ただ御屋敷に来られるのと、お泊りでは、全然違います!」
「まぁまぁ・・・あちらも重鎮の『ザラ家』だ。家に醜聞となるようなことはしないだろうよ。楽しんでおいで。」
「ありがとうございます!お父様。」
家長の一声、というよりアスハ親子のタッグ勝ちだ。しかし、マーナとて簡単に勝利を譲るわけにはいかない。
「・・・わかりました。しかしながらお嬢様。」
「え?」
喜びに緊張を無くしたカガリに、マーナは燃えるような圧倒的なオーラでカガリを威圧した。
「このマーナ。今回のご旅行には『条件』を出させていただきます!」
***
その日、アスランは大きめの自家用送迎車を横づけにした学院の前で、校門前に続く坂道を見守っていた。
登校の時、いつもカガリが駆けあがってくる、あの坂道だ。
<楽しみにしてる>
そういって、誘いを受けてくれた日の夜は嬉しさのあまり寝付けなかった。
カガリと二人きりになれるたことはあるにはあったが、こうして一日中彼女を独占できるのは、今回が初めてだ。
二人きりのビーチ・・・二人きりの食事・・・そして、それから・・・
一日中思いをはせても飽き足りない。翡翠の奥に彼女の笑みを浮かべていたその時だった。
「おーい、アスラーン。」
(来た!)
「カガリ、おはよ―――」
言いかけた翡翠に、とんでもないものが映って、アスランは絶句した。
・・・続く(かな?)
***
てなことで、思い付きのSS2話目です。
果たしてアスランが見たものは、なんでしょう??え、え絶句しちゃうほど、とんでもないものです(笑) 予想はつくかと思いますが。
で、続き書くのかな、かもしたさん。夏休み期間中に終わる気配がしないのですが、まぁ秋になっても残暑ということで、書けたらよいな。