彼女は無言で目を閉じていた。左で片肘をつき、軽く首をかしげてそれを頬杖にしたまま、右手の人差し指はせわしなく<トントン>と机を叩いている。
眉間にしわを寄せたまま難しい顔をしていたカガリが、決意したかのように指を止め、金眼を開いた。
「…で、今度は何をやらかしたんだ?アイツは。」
目の前では空軍士官2名がさして暑くもないのに、何度もハンカチで額の汗を拭っている。
「いえ、「やらかした」という訳ではないのですが…」
「はい。ザラ准将は大変優秀ですし、指揮官としても非の打ちどころがありませんし…」
「だったらその困り果てた顔は何だ?ヤツに直接言えないから、こうしてわざわざ私のところまで来たんだろう?」
こちらとしても忙しい身だ。しかし何故かアスランに関することはカガリの方に逐一報告が来る。
いや…「何故か」ではない。
今まで彼が「やらかした件」はおおむね「カガリに関すること」なのだから、ここに来るということは、概ね今までの事例と変わりないということだろう。
すると、また奥歯にものの挟まったような言い方―――ではあるが、今までと何か毛色が違う。
「職務態度も、勤務時間も全く問題はないのです。ですが、「ある時」だけ、少々接しづらいと言いますか、その…」
「上下士官限らず、「怖い」といいますか...」
顔を見合わせる二人は既に背後にその「恐ろしい時」のアスランが立っているかのようなおびえようだった。
「『ある時』?一体何時だ?」
「しいて言えば「休憩の時」と言いましょうか。」
「休憩時?だったら放っておけばいいじゃないか。」
元々アスランはそんなに社交的な性格じゃない。必要時以外は一人で何か黙々としていることの方が多い。…まぁ、そのせいで今までは「インジャス」のコクピットに、カガリのプリントされたブランケットやクッション、果てにはぬいぐるみまで(※過去のやらかし事件)を持ち込み、正座で説教したことがあった。そのことでまた自作の…私の///何かを大量生産でもしているのか?
「確かに実害はないのですが、ご存じの通りわが軍に置いて、あの思考や判断力、ひいてはMS操縦の腕で准将に敵う者はありません。ですから休憩中にコミュニケーションを兼ねて、師事していただこうと思う下士官も多く、勤務中はそれができないので休憩中にお声を掛けさせていただいたのです。休憩中、あの方はいつもスマホの画面を見て、凄く嬉しそうというか、滅多に見せない表情を崩しておられるので、機嫌がいいのかとついお声を掛けさせていただいたのですが―――
(―――「あの、ザラ准将、そんなに楽しそうに何を見て―――」)
だが次の瞬間、声をかけた下士官に
(―――「っ!(#`皿´)」)
(―――「ひっ!し、失礼しましたっ💦(((((TДT;)))))ゞ」)
それはもう、恐ろしい眼光と表情でして…」
「下士官の中には、もう完全に恐怖心で委縮してしまう者も出てしまいまして…」
「今後の司令系統に問題が生じるのではないか、ということか。」
「「はい・・・」」
(はぁー)と心の中でカガリはため息をつく。
「とりあえず、勤務中は問題ないんだな?」
「もちろんです。あと食事中に声をかけたときも、別段何の問題もありません。普通に穏やかに、丁寧に対応してくださいます。」
「だったら一概に「休憩中」という訳ではないのだな?」
「そうですね、報告によれば、状況的に「携帯を見ている時」の様でして。」
(『携帯』…?誰かと電話中、あるいはLINEとか…)
だったら確かに重要案件を連絡中に邪魔されたらアスランも機嫌を損ねるだろう。今回ばかりは、カガリの杞憂で終わりそうだ。
「携帯で連絡中だったら、確かに話の内容によっては、近づかれるのを嫌がるときもあるんじゃないのか? 何か極秘の案件だったら、他者に聞かれるもの困るだろうし。」
珍しく肩を持ってしまった。軍の機密事項を携帯で話すなんてことはしないだろうから、個人的なものかもしれない。プライベートな問題ならやはり他人に聞かれたくないものだ。
だが、士官たちは顔を見合わせてこう言った。
「無論、我々もお話し中に声をかけるようなことはしません。そうではなく、その…「何もしていない」時なんです。」
「…は?」
「つまりはただ、待ち受け画面をじぃ~~~~っと見ている時でして。表情筋が緩みっぱなしの時なので、機嫌がいいかと思い、ついその時に声をかけてしまいますと…」
「恐怖の時間が訪れる、という訳か。」
カガリは両手を組んで椅子の背に深くもたれかかり、天井を見上げる。
何か動画でも見ていたのだろうか?
それを邪魔されて怒る、とか…?
いや、動画なら、一時停止して話が終わればまた再生すればいいだけの事だ。
一体彼は、何を隠しているのだろう…?
***
アスランが退勤すると、軍令部の前に珍しくカガリが立っていた。
「カガリ、どうしたんだ?こんなところで。」
驚きつつも、どこか口角が上を向いている。人見知りなところさえ除けば、本当に人当たりは穏やかで優しいのだ。ただでさえ端正な顔立ちをしているから、微笑まれれば、女性士官たちは皆間違いなく卒倒ものだろう。
「いや、ちょっと困りごとがあってな。」
「どうしたんだ?俺に何かできることは―――」
途端に必死の形相。この時がチャンスとばかりにカガリは言う。
「すまない、携帯貸してくれ。」
「…え?」
翡翠が見開く。明らかに困惑した時の彼の表情だ。
「私の携帯が調子悪くってな。ちょっと屋敷に連絡したいから、頼む。」
「…」
黙ったままの彼。この数秒で、とんでもなく思考回路が常人の数十倍駆け回っているはず。
「内閣府から電話できなかったのか?」
「今、気づいたところだ。軍令部からまた内閣府まで戻るなんて、歩いて何分かかると思っているんだ?」
そう言って右手を差し出す。無言で「か・し・て!」を貫いていたのだが、彼は
「すまない。今俺の携帯も調子悪くって、電波拾い難いんだ。代わりにこっち使っていいから。」
そう言って手渡された2台目の携帯。明らかに仕事用だ。軽々とロックを外してにこやかに手渡されたそれは、素っ気ないデザインの待ち受けと、ほとんど入っていないアプリ。
流石だ。ごく自然に、相手に違和感を感じさせないやり取り。本能的に思う。
(秘密の元はこの携帯じゃないな)
でも黙って受取、こちらもごく自然に登録先からアスハ邸を出して彼の前で連絡を入れる。
「…あ、私だ。マーナはいるか?……あ、私だ。今晩アスランと一緒に食事が摂れそうだから、今から帰宅するので準備頼めるか?」
アスランは一瞬驚いた表情を見せるが、止はしなかった。寧ろ頬がちょっと紅潮しているあたり、まんざらでもなく嬉しいのだろう。
「よし!ありがとな。折角だから一緒に帰るか。」
「あ、あぁ、今車を出してくるから。ちょっと待っていてくれ。」
そう言って小走りに去り行く彼の後姿を見送る。
無論、夕食に誘ったのは目的があるからだ。それをあの聡い男に感づかせないよう、細心の注意を払わなければ!
夕食を摂り終わって、くつろぎながらたわいもないお喋り。何で皆この男を「無口」というのだろう?それだけは理解しがたい。
「そうだ。私シャワー浴びてくるから。」
「じゃぁ俺も。」
勿論浴室は各私室に備えられているので、一緒には入らない。断じて誤解なきよう。
しかし、だ…
彼が席を外したところで、私もサッと身をひるがえし、彼がシャワールームの中に消えたところで「それ」を探し当てる。
「…!あった!」
そのまま速攻、兼ねてより打ち合わせていた相手を呼び出す。
「すまないな、お前だったら数分でできるだろう?この中で、私に関するものがあったら探してくれ!」
***
そして…
<コンコン>
夜分、私の部屋のドアがノックされる。もう既に私は仁王立ち状態で待ち構えている。
「カガリ?一体どうしてこんな時間に―――」
「いいからここに来い!」
一応冷静に振舞ったつもりだが、既に語尾が怒りで上ずっている。これに気づかぬほど、思慮の浅い男ではない。表情が一変した。
「カガリ!?何を怒って―――」
「いいからここまで来い!そして正座待機!」
泣く子も黙る元ZAFTRED&現オーブ軍准将も、慌ててスライディングしながら目の前で正座した。
「これは何だ!?」
カガリがアスランの目の前に突きつけたもの―――それは
「何で私の寝顔なんか、写真にとって保存しているんだよ!(怒)」
プリントアウトされたそれは「ベッドの中で、心地よさそうに眠り込んでいる、安らかな寝顔のカガリ」。更にいえば上半身のアンダーから胸の谷間が僅かに覗かせるセクシーショット。
「な、何でこれを!?」
慌ててひったくり上げたアスランだが、顔色は一気に青ざめている。
「聞きたいのはこっちだ!お、お、お、お前っ!///こんな写真何時盗撮したんだ!?///」
「酷いぞカガリ!スマホの中を勝手に覗くなんて、プライバシー侵害だ!」
「何を言うか!お前だって私の許可なく、し、しかも寝顔なんてっ!///肖像権侵害は50万以下の罰金(※2022年現在価格)だぞ!」
「だ、だって仕方なかったんだ!」
「何が「仕方がない」だ!私が納得できるような、その理由を説明しろっ!///」
「その…洋上訓練演習の時…」
すっかりローテンションになって項垂れながら(※毎回やらかした時にする姿勢)朴訥と話し始めた。
「何日も君に会えないと思うと、航海に出るのも正直嫌で…でも仕事としてやり遂げなければいけないし、モチベーションをあげるために、君のプリントされたブランケットやクッション、手製のぬいぐるみも用意したけど、ことごとくダメ出しされて…」
いや、そりゃ私が嫌だ。私のグッズに囲まれてインジャスで戦っているアスランを正直想像したくない💧 それに以前も同じように肖像権侵害で説教垂れたことを、コイツはこの普段は有能な頭から完全消去したらしい。
「それでその…今までのグッズは他者の目につきやすいからだと思って、今度は誰にも目につかない場所に、俺が一番癒される君の顔を保存しておけば、大丈夫だろうと思ったんだが…」
いや、どう考えても軽く犯罪行為だろう。
カガリは頭を抱える。ぬいぐるみの時は100歩譲ったが、流石にこれだけは許せない。
「いいから消去しろ。」
「…どうしても?」
「どうしても。」
「…ダメなのか?」
「ダメに決まっているだろう!」
最後は圧をかけた結果、泣きそうな顔をしてアスランは画像をデリートした。
これでよし。だが―――
「…」
カガリは頭を抱える。
(ダメだ、コイツ魂抜けかけてる…)
真っ白に燃え尽きたように脱力しているアスラン。これではまたもオーブ軍の士気にかかわる。
(一体どうすれば…)
仕方ない。ここはアスランのために
「カガリ?」
カガリは膝をついたままのアスランの前に座り込むと
<ギュ>
「か、カガリ!?///」
「会いたくなったらいつでも来い!会えない時間が長くなったら、長くなった分だけこうしてやる!///」
「いいのか?」
「お前のことだ。「○日△時間×秒会えなかったから」とか、時間計るに決まっている。だったらその分ちゃんと昇華してやるから!」
「じゃぁ―――」
「その代わり!…もう写真なんかじゃなく、本物の私だけを見ろよ///」
「了解。じゃぁ早速今夜、よろしいでしょうか?」
いきなりかよっ!
「し、仕方ない、約束は守る///」
背中に回された腕に力がこもる。
そのまま彼に身をゆだねて。私はそっと目を閉じた―――
***
「―――で、ロック外してカガリの写真を抽出したのはお前だろう?」
<あー、やっぱりバレるよね。>
そう言って画面の向こうのキラが苦笑いする。
「俺がバスルームにいる短時間で、セキュリティーロックを外して検索かけられるのは、世界広しと言えど、お前くらいだろう。」
<そりゃハッキングは得意だけどさ。正直僕も怒っているんだよ?カガリのあんな姿、写真にとって保存しているなんて。君たちがもう「そういう関係」になっているは重々承知しているけど、やっぱり妹のそんな姿を保存している友人は嫌だよ。>
「姉じゃないのか?」
<今はその話はどうでもいいの。…男だから気持ちはわからなくはないけど、もうやらないでよ?>
「あぁ、もうしないよ。」
<随分引き際がいいんだね。いつもはカガリのこととなると、もっと食い込んでくるくせに。>
訝し気なキラを前にして、アスランは得意気に胸元から取り出す。
「いや、本当に今回はお前はいい仕事してくれたよ。」
そう言って見せたのは、ハウメアの護り石に通された―――鍵。
<それ、まさかカガリの部屋の―――>
アスランはにっこりと余裕満天の笑顔で言った。
「これでいつでも彼女の寝顔を眺められるフリーパスが手に入ったからな。」
・・・Fin.
***
・・・何考えているんでしょうね?かもしたは(ーー;)
いえ、昨夜待ち受けの画面を変える話をしていて、(そういえばアスランの待ち受け画面ってきっと、購入時の時の初期画面のままだろうなw)と思ったのですが、唯一変えるとしたら「可愛い姫が撮影できたらそっちにするだろうな(笑)」と思いまして。無論、誰にも見せないだろうから、1人鑑賞して、周囲に人が近づこうものならケダモノ遠吠えして威嚇するだろう(笑)
それはさておき。
こんなことを考えている暇があったら、来週の双子ちゃん誕生日のプロットでも考えりゃいいのに、全然進んでません💧 多分↑を考えたのも、逃避の一種の形かもw
それにしても、なんかこの「姫様グッズにおけるアスランの問題行動」がシリーズ化してきましたな(笑)
第一回はプレバングッズで、第2回はガンカフェの「姫ぬい」で。グッズが出る度にネタとして使っていましたが、今回はTシャツが出たので、そっちで考えりゃよかった(笑)
でも姫様のTシャツ来ているアスランって…「あんまり笑えないな」💧かえってなんか別の意味で怖い^^; 待ち受け画面くらいが丁度いいのかもw
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