うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

愚者の呪い

2024年10月21日 14時34分58秒 | ノベルズ
ファウンデーションとの攻防から、早数年が経とうとしていた。

アスランは久しぶりに帰還したオーブで、休暇を兼ねてアスハ家に出向き、同じく休暇を取っていたカガリと、ようやく二人きりの時間を過ごしていた。
日の光を受けた明るく広いダイニング、レースのクロスのかかったテーブルで向かい合い、ゆっくりと二人でコーヒーを味わいながら談笑し、近況を報告し合う。
何気ない会話ができる時間は貴重だ。戦時中、会話どころか顔を合わせる機会も殆どなかったのだ。それを考えると、こうして穏やかなひと時を過ごせるのは、世情が落ち着いていることに他ならない。ありがたく享受していると、ふいにカガリから「少し外に出ないか?」と誘われ、頷く。
広い中庭を並んで歩いていると、カガリが顔を上げた。
「見ろよ、アスラン。」
その視線の先を追えば、中庭でも飛び切りの大樹に、少し膨らみかけた幾つもの淡いピンクの蕾が、節くれだった枝を飾り立てていた。
「もう直ぐ咲きそうだ。」
「桜か。オーブにもあると知ったときは驚いたよ。」
キラと通った幼年学校のあったコペルニクスや、プラントにも桜はあったが、こんな温暖なオーブにもあるとは思わなかったのだ。
「プラントにある本物の桜とは違うがな。『ジャカランダ』っていうんだ。」
カガリがそう教えてくれた。南国の桜といえばこの木のことを指すらしい。
「ソメイヨシノとかと違って、花はピンクでも少し青味がかった色をしているんだ。それに木の成長とともにつく花の数が凄く増えるんだ。」
「へぇ…」
一緒に見上げるそれは、オーブの青い空に溶けるような色合いで、どこか懐かしく、愛おしい。しばし二人でそのまだ小さな蕾を見守っていると、
「木も成長すれば、こんなに沢山の花をつけてくれるけど、私たちは…」
カガリが空より更に遠くを見つめるようにして、ポツリとつぶやいた。
「私たちは、どれだけ多くの花を咲かすことができたんだろうか。」
ファウンデーション、いやアコードとの戦いの後、アスランは直ぐにターミナルの仕事に戻った。
戦時中より、むしろ戦後の方が大事だ。やることが嫌というほど湧いて出る。
未だダメージを負ったままのユーラシア、そしてわずか生き残ったファウンデーションの人々の救済も続いている。ファウンデーションショックから、いくつもの小国家が独立を謳ったものの、ファウンデーションの終末を見て以降、呼応したように内戦やクーデターが後を絶たない状態だった。
何とか息をつないだコンパスは、キラとラクスを除いた残存戦力でもって、各地の武装を解いている。
オーブは各国への経済支援など含め、カガリが地道な努力を重ねてきた結果、ほんの僅かながらも、経済基盤が軌道に乗り、各所で国家の立て直しが始まっている。
アスランは各地をつぶさに見て回り、それを正確にカガリに伝え続けてきた。先程、まだ声色に不安を込めたカガリに、努めて明るくアスランは答える。
「今はまだ僅かだが、それでも君の助力が花開き始めているよ。」
そう、このジャカランタのように。
「それに、後身も随分と成長したじゃないか。各所で「オーブのトーヤ・マシマ」の名前を見かけるようになったよ。君の教育の賜物だな。」
するとカガリは少し照れたように「そうか?」と言って微笑む。
「お前もメイリンも、もうじき出向期限だったな。」
「あぁ。お陰様でオーブ軍情報機関から、引継ぎできるほどの人材が紹介されてきたよ。ミリアリアとサイからも、キャバリア―操縦も含めてお墨付きだそうだ。」
「会ったのか?後輩と。」
「このオーブ帰還は、その引継ぎを兼ねてのものだから、メイリンと二人でしっかりやってきた。キサカ海将が直々に育て上げたこともあって、文句なしだ。」
「ならよかった。…じゃあ、今度の任務がターミナルでは最後の任務になるんだな。」
「そうだ。かなり治安も悪く危険な任務になるが、それが終わればようやく腰を据えてオーブにいられるよ。」
サァ…と二人の間を柔らかな風が吹く。
煽られた金糸を抑えるようにしていたカガリが、ふと視線を感じてそちらを見れば、アスランが真っ直ぐな視線をカガリに向けていた。
その翡翠が熱を帯びていることにカガリは気づく。彼が何か決意したときにする眼差しだ。


―――続きはこちらから。


***


久しぶりに支部のSSを更新しました。お暇な方はチョロっと覗いていただけると嬉しいです♥
劇場版本編後の世界のアスカガです。
多分アスランはずっとターミナルに出向したままではなく、オーブ本軍に戻ってくると仮定してのお話です。でも多分、アスランの能力を一番フルに活用できるのってターミナルなんじゃないか、と思いますv
大きな組織に所属するより、それこそフリーダムに自己判断で活躍できる方が、彼にとってストレスなさそうですし。…唯一のストレスは、カガリと頻繁に会えない(モニターで会話はできるでしょうが、スキンシップが取れない:苦笑)ことでしょうが。
でも軍も組織ですから、階級が上がっていくに従って、統括本部に必要になってくると思うのです。それこそ経験から得た政治経済をはじめとする全体を見渡す視野と、組織の維持育成も含めて、アスランだったら速攻少将とか中将レベルで軍組織が欲しがるでしょうね。多分そのことを見越しての、ターミナルへの出向だったんじゃないかと思ってます。
「カガリは引退した後、アスランの元に行く」という監督のお言葉ですと、一緒にターミナルでの仕事をしても面白そう♪と思ったのですが、トーヤ君の後見人として、やはりまだオーブにいる必要はありそうなので。
だったらアスランが軍本部に戻る方が、ナチュラルな流れかな?

とりあえず書き始めたのですが、プロットはめっちゃ短かったはずなのに、なんだか止まらなくなってしまったので、また続き物です^^;
定期ではなく、不定期にUPになりそうなので、更新しましたら、またここでも掲載していきますd(^^ゞ

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