KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
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初めてのP.V vol.1~こんな朝は迎えたくなかった

2008年08月20日 | 五輪&世界選手権
8月17日の朝、六時半に目覚まし時計のベルに起こされる。昨夜は、町内会の行事についての飲み会で、かなり悪酔いしてしまった。口論になった記憶がある。そんなわけで、目覚めの気分はかなり良くない。むかつく胃袋に無理に朝食を押し込み、車で松山大学まで。

土佐礼子の母校、松山大学で行われる女子マラソンのパブリック・ヴューイングを見に出かけるためだ。4年前のアテネ五輪は一人部屋でテレビを見ていた。昨年の世界選手権は用事があって、生中継ではレースを見ていない。今回こそはと彼女が代表に内定してからずっと思っていた。それだけに、こんなイヤな気分で4年に1度の朝を迎えたくはなかった。

学内に車を乗り入れできないので、近くの駐車場に車を停めて、キャンパスまで歩いていく。これも少しつらい。空は曇り、小雨もばらつく。昨日までは連日酷暑日だったというのに。

僕が通っていた、「松山商科大学」と名乗っていた頃には無かった教室が会場だ。スタートまでまだ30分以上あるが、会場には多くの人が集まっている。学生からOB、子供までさまざま。皆、そろいのTシャツにチア・バルーンを手にしている。僕も入り口で貰った。後ろの方の席に座り込む。なかなか醒めない二日酔いのせいで、テンションは上がらない。

舞台の上に応援団のOBが上がり、エールを送る。
「フレー!フレー!レイコ!」

パブリック・ヴューイングは初めてだ。しかし、これなら、家でゆっくり見ていた方が良かったかな?

予想に反して、気温は低い。酷暑を望んでいた土佐にとっては、あてが外れた形となった。

8時半、スタート。テレビを見ながら、応援リーダーの声に合わせて、チア・バルーンをたたく、一連の動作をようやく、気恥ずかしさを感じずにできるようになっていった。

しかし、それにしてもペースは遅い。せっかくの低温だというのに。今年の名古屋を思い出させる。

5km手前で一人のランナーが立ち止まる。アテネの銅メダリスト、アメリカのディーナ・カスターだ!足を痛めたのか?危惧されていた固い路面の影響か?

先頭集団の中ほどに土佐はいるようだ。しかし、なかなか見つけられない。思えば、これが不吉な予感だった。基本的に土佐はフロントランナーだ。調子のいいときは集団の先頭の中央に位置取り、レースを引っ張る。そんな彼女が集団の中に埋もれている。10km36分10秒で通過するスローなペースだというのに。中村友梨香の方がよくテレビに映る。雨も降り出した。15kmを53分52秒。

スタートから約1時間。土佐は集団の最後尾。その後ろには昨年の世界チャンプ。ケニアのキャサリン・ヌデレバ。

土佐が遅れ始めた。やはりそうか。

先月末、彼女の夫、村井啓一さんからメールを受け取っていた。昨年の大阪の前に転倒して膝を打った時よりも悪い状態なのだという。数日後、彼にメールを出した。
「大丈夫ですよね?」
今まで、どんなにひどい状態になっても、いつも彼女は大丈夫だった。今回も大丈夫であって欲しかった。彼の返事は
「最後まであきらめません!」
だった。悲痛な決意だった。その後、大黒柱というべき金メダリストの野口みずきの体調不良が発覚、欠場が決定した。

土佐は遅れていく。周囲のランナーに次々と抜かれていく。野口が出場していてもこうなっていたか。苦痛に顔を歪めている。まだ、中間点を過ぎていないのに。応援リーダーが声を張り上げる。太鼓が鳴り響く。
「フレー!フレー!レイコ!」

チア・バルーンを持つ手に力が入る。土佐にとっても、今朝は不幸な朝だった。どうして、四年に1度の朝がこんなに・・・。

痛みを堪えて走る土佐の姿が何度も映る。そのたびに「フレー!フレー!レイコ」が繰り返される。北京まで、届くわけがないと、誰もが分かっているのに、そうせずにはいられなくなる。

何位でもいい!せめてゴールまで行ってくれ!

中間点を前にして、ルーマニアのコンスタンティナ・トメスクが前に出た。38歳のベテランの飛び出しを誰も追いかけない。アテネの男子マラソンでの、ヴァンダルレイ・デ・リマを思い出させた。

(つづく)



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