11月19日正午。テレビの画面に映し出された国立競技場は、雨だった。テレビを見ている僕の部屋の窓の外と同じように。
16年ぶりの雨となった東京国際女子マラソン。その時は、サッカーのトヨタカップと日程が重なり、神宮球場にランナーがゴールしていった。優勝は中国の謝麗華。当時の記録を見ると、トップ10の中に、日本人は3位の谷川真理さんのみである。まだ、日本人が女子マラソンでメダルを取ることが目標でなく、夢だった頃だ。この時の4位はバルセロナ五輪の金メダリストのワレンティナ・エゴロワで7位は世界選手権イェーデボリ大会の金メダリストのマヌエラ・マシャド。なんと、ここで「メダリスト対決」が実現していたのだ。
16年後、ついに、日本人のメダリスト対決が東京で実現した。シドニー五輪金メダリストの高橋尚子と、世界選手権エドモントン大会の銀メダリスト、土佐礼子、6年ぶりの直接対決。
スタートから土佐はするすると前へ出てトップに立ち、ペースメイカーよりも先に立とうとする勢いだ。そして、高橋ら有力招待選手が後につき、9人余りの集団が作られ、5kmを16分30秒のハイ・ペースで通過した。
携帯電話が「喜びの飛行」(箱根駅伝中継のテーマ曲)のメロディを鳴らす。僕の走友で、マラソンに関する知識の師匠である、K氏からだ。
「なあ、オレの言うた通りやろ。」
テレビや新聞の事前予測では、土佐が勢い良く飛び出し、独走すると思われていた。高橋はあえてそれにつかず、後半のスパートで逆転を狙う、そんな展開予想をK氏は一笑に付した。
「土佐が飛び出したら、高橋はつくで。土佐に勝つつもりならそうするで。」
山口衛里さんがシドニー五輪代表入りを決めた'99年に作った、コース・レコードを2人で破りに行くことをK氏は期待していたのだ。
アテネ五輪やボストンで使ったのとは別のサングラスに黒いアーム・ウォーマーの土佐が前に立ち、白い帽子を目深にかぶりサングラスをかけた高橋が後ろにつく。ペースメイカーの1人が10kmでやめるほどのハイペースに、集団からランナーが1人ずつ脱落していく。僕が注目していたジェニファー・ラインズが真っ先に脱落していった。それにしても高橋は忙しい。CMの間も走り続けている(笑)。
雨の中、沿道の応援は切れ目なく並んでいる。さすがに高橋の人気は凄い。イェブティッチ、バルシュナイテの東欧コンビも遅れていった。
あるいは、ダークホースかもと思えた尾崎朱美も脱落し、残ったのは土佐と高橋とエチオピアのアジャ・ジジ。
しまった、と思った。ジジのことを「展望」で触れるのを忘れていた。9月のベルリン、10月のシカゴ、どちらもエチオピアの女子ランナーが優勝している。あるいは、来年の世界選手権、再来年の五輪において、日本の強敵となるのはラドクリフでもヌデレバでもなく、エチオピア勢ではないかと書くつもりだったのを忘れていた。
土佐と尾崎がしているアーム・ウォーマー。最近、寒い日のレースで使用するランナーが多いが僕は持っていない。見た目があまりカッコ良くないので自分では使ってみようと思わないのだ。僕のレベルでは、真冬のレースでは長袖シャツを着用するようにしている。それはともかく、高橋がアーム・ウォーマーを着用していないことを解説の増田明美さんが危惧していた。
身体が冷えてしまわないかと。
(結果として、増田さんの不安は的中してしまうのだが。)
ペースメイカーのイワノワはいい仕事をしている。このまま、レースに参加させたくなるほどだ。もったいない。
気温は10℃。高橋が後半失速した3年前のこのレースと比べると14℃も低い。しかし、雨が体感温度を下げているようだ。
「いきなり出てきてごめんなさい。」
と、画面の3分の1を使ったCMに、失笑させられた。でも、この手法は、他の民放のマラソン中継でも使われそうだ。
K氏と電話で話す。
「2人が、山口の記録を破って、2人とも世界選手権に内定、というのが一番の結末やなあ。」
実際、20kmの時点では、それは不可能ではなさそうに見えた。中間点を前にジジが脱落。(彼女はリタイアしたようだった。)
大森の折り返しを過ぎて、いよいよ、土佐と高橋のマッチレースが始まった。いつ、高橋がスパートを見せるのか?そして、それに土佐はつくことができるのか?
22kmの給水ポイントで、高橋が手袋を脱ぎ捨てた。
(つづく)
16年ぶりの雨となった東京国際女子マラソン。その時は、サッカーのトヨタカップと日程が重なり、神宮球場にランナーがゴールしていった。優勝は中国の謝麗華。当時の記録を見ると、トップ10の中に、日本人は3位の谷川真理さんのみである。まだ、日本人が女子マラソンでメダルを取ることが目標でなく、夢だった頃だ。この時の4位はバルセロナ五輪の金メダリストのワレンティナ・エゴロワで7位は世界選手権イェーデボリ大会の金メダリストのマヌエラ・マシャド。なんと、ここで「メダリスト対決」が実現していたのだ。
16年後、ついに、日本人のメダリスト対決が東京で実現した。シドニー五輪金メダリストの高橋尚子と、世界選手権エドモントン大会の銀メダリスト、土佐礼子、6年ぶりの直接対決。
スタートから土佐はするすると前へ出てトップに立ち、ペースメイカーよりも先に立とうとする勢いだ。そして、高橋ら有力招待選手が後につき、9人余りの集団が作られ、5kmを16分30秒のハイ・ペースで通過した。
携帯電話が「喜びの飛行」(箱根駅伝中継のテーマ曲)のメロディを鳴らす。僕の走友で、マラソンに関する知識の師匠である、K氏からだ。
「なあ、オレの言うた通りやろ。」
テレビや新聞の事前予測では、土佐が勢い良く飛び出し、独走すると思われていた。高橋はあえてそれにつかず、後半のスパートで逆転を狙う、そんな展開予想をK氏は一笑に付した。
「土佐が飛び出したら、高橋はつくで。土佐に勝つつもりならそうするで。」
山口衛里さんがシドニー五輪代表入りを決めた'99年に作った、コース・レコードを2人で破りに行くことをK氏は期待していたのだ。
アテネ五輪やボストンで使ったのとは別のサングラスに黒いアーム・ウォーマーの土佐が前に立ち、白い帽子を目深にかぶりサングラスをかけた高橋が後ろにつく。ペースメイカーの1人が10kmでやめるほどのハイペースに、集団からランナーが1人ずつ脱落していく。僕が注目していたジェニファー・ラインズが真っ先に脱落していった。それにしても高橋は忙しい。CMの間も走り続けている(笑)。
雨の中、沿道の応援は切れ目なく並んでいる。さすがに高橋の人気は凄い。イェブティッチ、バルシュナイテの東欧コンビも遅れていった。
あるいは、ダークホースかもと思えた尾崎朱美も脱落し、残ったのは土佐と高橋とエチオピアのアジャ・ジジ。
しまった、と思った。ジジのことを「展望」で触れるのを忘れていた。9月のベルリン、10月のシカゴ、どちらもエチオピアの女子ランナーが優勝している。あるいは、来年の世界選手権、再来年の五輪において、日本の強敵となるのはラドクリフでもヌデレバでもなく、エチオピア勢ではないかと書くつもりだったのを忘れていた。
土佐と尾崎がしているアーム・ウォーマー。最近、寒い日のレースで使用するランナーが多いが僕は持っていない。見た目があまりカッコ良くないので自分では使ってみようと思わないのだ。僕のレベルでは、真冬のレースでは長袖シャツを着用するようにしている。それはともかく、高橋がアーム・ウォーマーを着用していないことを解説の増田明美さんが危惧していた。
身体が冷えてしまわないかと。
(結果として、増田さんの不安は的中してしまうのだが。)
ペースメイカーのイワノワはいい仕事をしている。このまま、レースに参加させたくなるほどだ。もったいない。
気温は10℃。高橋が後半失速した3年前のこのレースと比べると14℃も低い。しかし、雨が体感温度を下げているようだ。
「いきなり出てきてごめんなさい。」
と、画面の3分の1を使ったCMに、失笑させられた。でも、この手法は、他の民放のマラソン中継でも使われそうだ。
K氏と電話で話す。
「2人が、山口の記録を破って、2人とも世界選手権に内定、というのが一番の結末やなあ。」
実際、20kmの時点では、それは不可能ではなさそうに見えた。中間点を前にジジが脱落。(彼女はリタイアしたようだった。)
大森の折り返しを過ぎて、いよいよ、土佐と高橋のマッチレースが始まった。いつ、高橋がスパートを見せるのか?そして、それに土佐はつくことができるのか?
22kmの給水ポイントで、高橋が手袋を脱ぎ捨てた。
(つづく)
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