
柄本明が演じる渡し舟の船頭は、すこぶる付きの純な男である。もちろん無学であるが、人間が生きて死ぬということの意味を、常に考えている。
川の向こう岸の町に行く手段は、船頭の出す舟しかない。だが両岸を結ぶ頑丈な橋が建設中であり、橋の完成が船頭の生活を脅かすこと必定である。
橋が出来上がるにつれて、穏やかな人間関係に亀裂が入っていく。

上流から瀕死の少女が流れて来て、船頭は必死で少女の命をつなぐ。少女役 川島鈴遥(りりか)の眼光が鋭い。また新たな才能が出現した印象だ。
少女の存在で船頭の日常が大きく変化して。

船頭が語る言葉は、道徳的というよりいかにも常識的だが、真面目に生きる人の常識的な言葉にこそ重みがある。
この作品は半ば過ぎても、結末が見えて来ない。
オダジョーの哲学が随所に感じられる作品。
衣装はオスカー賞デザイナー ワダ エミ。少女の無国籍風着衣には違和感があったが、デザイナー名を見て納得。