神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] グイン・サーガ・ワールド 8

2013-07-10 23:45:14 | SF

『グイン・サーガ・ワールド 8』 天狼プロダクション監修 (ハヤカワ文庫 JA)

 

グイン・サーガ・ワールド第2期完結。

正篇である五代ゆうのパロ篇は驚天動地の展開。「大丈夫なのかこれ!」と思わず叫んだくらい。栗本薫の創作ノートに準拠しているならばいいのだが、完全オリジナルでこの展開はまずいだろ!

いやいや、冷静になれば、あれが本物のはずはないのだから……。しかし、ここで終わられても困るので、ぜひ第3期も続けてもらわなければ困る。

宵野ゆめはさすが栗本薫の弟子の安定感。ケイロニア篇はそこまでの驚きではないが、遂にその時が来たかとの衝撃。そして、ついにグインとパリスが合いまみえる。が、こちらも、無常にも続く。ぜひ第3期も(略)

グイン・サーガ・トリビュートは一般公募形式。まだ応募数が少ないせいか、応募作すべてに選評が付いているのが素晴らしい。その中では、掲載されなかったものの「夢の中で」村上善行が一番読んでみたい。梗概がいちばんおもしろいというパターンで終わりそうだろうけれども(笑)

そして、「スペードの女王」の最後は“未完”。本当にこれで終わってしまうのか。謎解き編プリーズ。ぜひ第3(略)


「パロの暗黒」 五代ゆう
驚天動地の展開。パロが竜騎兵に再侵攻されるのはともかく、黒幕として出てきたひとは許されるのか? 黒竜戦役篇からの登場人物もひとり死んじゃったけど許されるのか? そして、マルコはどこいった。まさか竜騎兵にやられたとか、許されるのか? いろいろ大問題を抱えながら、ここで終わりは無いでしょう。次に期待。

「サイロンの挽歌」 宵野夢
ついにパリスとグインの対決。かと思ったら肩すかし。ケイロニアの未来を決めるのは運命の天秤か、神々の取引か。シルヴィアに対するグインの複雑な想いも読めて非常に興味深い。

「アムブラの休日」 円城寺忍 (トリビュート・コンテスト)
まだ天真爛漫な頃のシルヴィアに萌えずにはいられない。そして、この先に待つ運命を知れば、そのギャップに泣けてくる。そして、この人の作風は驚くほどグイン・サーガを再現できていると思う。いや、栗本薫的なのか。グインだけではなく、《ぼくらシリーズ》の雰囲気も感じるんだよな。

「ヤーンの紡ぐ光と闇」 青峰輝楽 (トリビュート・コンテスト)
こちらもシルヴィアを主人公に据えた作品だが、なんとなく絵柄の違う同人誌風。

トリビュート・コンテストでは、シルヴィアとフロリーが人気のようで。やっぱり薄幸の女性をなんとしても救いたいという想いが強いのだろうか。個人的には、外伝でも続篇でもないのだから、もっとぶっ飛んだ作品があってもいいと思ったのだけれど。(←お前が書け)

「現実の軛、夢への飛翔」 八巻大樹
中島梓としての仕事は余り読んでいない(ヒントでピントに出てるのも、当時は知らなかったし)ので、栗本薫と中島梓の活動を俯瞰するのは初めてで、なかなか興味深かった。いろいろ、ふーんそうだったのかと思いながら読んだ。

 


[SF] 極光星群

2013-07-10 22:52:42 | SF

『年刊日本SF傑作選 極光星群』 大森望/日下三蔵 編 (創元SF文庫)

 

序文でも触れられているが、SFの待遇はずいぶんと変わったものだ。SF専門誌である『SF Japan』は休刊となってしまったが、SF専門誌以外にもSFを載せる小説誌が多様化しているようである。今年の収録作も、既読のものはSFM掲載の瀬尾つかさと、『The Future Is Japanese』に掲載の円城塔のみ。

こういう状況の中でさらにNOVAや、SF作家クラブ50周年企画の短編集が次々と出ているのだから、読む方も追いつかないというものだ。選者の大森、日下両氏の読書量とアンテナはすごいものだなと感心する。

この中から、さらにベストを選べと言われれば、乾緑郎「機巧のイヴ」か。ネタ的にはお約束に近いものがあるのだけれど、現代や未来ではなく、江戸時代に舞台を持って行ったせいで、不思議な現実感がある。ファンタジーの向こう側のファンタジーというか、何が起こっても不思議はない感覚。

 


「星間野球」 宮内悠介
野球盤にこれだけ熱くなれるという以上に、これだけ馬鹿みたいにやりたい放題のことをやっても、ゲームが無効にならないところが素直にすごいと思う。それだけ固い友情と、ゲームにかける情熱が読み取れる。

「氷波」 上田早夕里
ちょっとはやぶさっぽいイメージもある。人工人格の限界と可能性については、これまでも幾多の作品が書かれているが、情報量を削ぎ落とすことによって人格の本質が見えるのではないかという視点はおもしろいと思った。

「機巧のイヴ」 乾緑郎
日本蟋蟀協会のサイトによると、闘蟋は中国の文化で、日本の江戸時代に流行ったという記述は無かったので、完全なる偽史なのだろう。からくり人形は妙にロマンを感じるモチーフであり、これもまたCool Japanのひとつだと思う。いわば、日本的スチームパンクは、こういう発条パンクというの形になるのではないか。

「群れ」 山口雅也
ミステリではなく、リドル。なんのことか今ひとつよくわからず。オープンエンドな話ということしか理解できなかった。「謎には必ず答えがある」というミステリへのアンチテーゼなのだろうが、そんなの他の分野にはいくらでもあるし……。

「百万本の薔薇」 高野史緒
日本では加藤登紀子の歌で知られる「百万本の薔薇」をモチーフにした小説。元はラトビアの歌謡曲だが、ロシア語版の歌詞で歌われているのはグルジアの画家のロマンス。ということで、小説の舞台はグルジア。百万本の薔薇なんか贈れるはずがないとうそぶく主人公が印象的。植物の持つ香りの無限の可能性が華麗、かつ、不気味。

「無情のうた」 會川昇
アニメ『UN-GO』第二話の脚本。坂口安吾も読んでいないし、アニメも見ていないので、舞台や設定の把握にちょっと難儀。アイドルグループ『夜長姫3+1』の売り方は、現実にありそうな気がする上に、ネトウヨ系言論が強くなっている昨今、奇妙な怖さも感じる。あと、カントリー娘……。

「とっておきの脇差」 平方イコルスン
マンガ枠。文字通り(絵通り)に理解していいのかどうか戸惑い、なかなか『成程』と言えないもどかしさがある。

「奴隷」 西崎憲
収録コメントで「寓意はない」といくら書いたところで、それは無理があるだろう。しかし、こうやって明言されると、何も言えぬ。

「内在天文学」 円城塔
非常に円城塔らしい。『The Future Is Japanese』で読んだときは、世界の果てから1/5の話に納得してしまったのだけれど、再読の今回はおかしいことに気付いた(笑)

「ウェイプスウィード」 瀬尾つかさ
SFMで既読。王道というか、正統派。14歳のSF。それでも、ちょっとだけずらしてくる感じがただのジュブナイルではない味になっている。

「Wonderful World」 瀬名秀明
なんだか瀬名秀明は文学方向に目覚めたのか、文章がどんどん技巧的になり、読みづらくなっている気がする。2013年3月のSF作家クラブ会長辞任までに何があったかのわからないが、SFとは未来を作るものだという真正面から切り込んだテーマに、瀬名秀明のSFへの思いを感じる。しかし、あまりに大上段からの振り下ろしに、かえってついていけない感じがしてしまった。『NOVA 10』の続編を読むと、感想が変わるかも。

「銀河風帆走」 宮西建礼
毎回、創元SF短編賞受賞作の完成度には驚かされる。この作品も素晴らしい。風に飛ばされるタンポポの綿毛のイメージと、宇宙空間を渡っていく銀河風セイル播種船のイメージが重なる。桁違いの時間と空間の広がりをヒト(改造済み)が旅をするというのも、グレートジャーニーのロマンがある。ただ、解体者のくだりは無くてもよかった気が。