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[SF] 世界を変える日に

2013-07-31 21:36:19 | SF

『世界を変える日に』 ジェイン・ロジャーズ (ハヤカワ文庫SF)

 

イギリスSFは暗くて鬱陶しいと言われるが、これまた重苦しい物語だった。読んでいて息が詰まるぐらいの陰鬱さ。

バイオテロで世界中に広まったウィルスによって、すべての妊婦は死に至る。つまり、この先、人類に子供は生まれない。この状況に対し、科学を否定する運動を始めるもの、動物実験を許さない運動に加わるもの、逆に、女性を救うための動物実験を擁護するもの、いろいろな社会運動、混乱、暴力、テロが蔓延する。

その中で、一人の聡明な少女が選んだ決断。

これを、『たったひとつの冴えたやり方』に例えるには、その決断はたったひとつでも、冴えてもいないのかもしれない。しかし、彼女の決断を翻意させることはできるのだろうか。

俺は学研ひみつシリーズと世界名作SF全集で育った科学の子だと自負している。科学は万能ではなく、時には災禍の引き金を引くこともあるだろう。しかし、その災禍を収めるのも、祈りや呪いではなく、科学しかありえないと信じている。

その思いは福島原発事故後であっても、まったく変わりは無い。

そうではあるけれど、自分の恋人や妻や娘が、科学のために進んで犠牲になろうとするとき、それを止めずにいられるだろうか。

動物実験は仕方がない。しかし、人体実験はどこまで許されるのか。動物実験と人体実験の倫理的な違いはどこにあるのか。科学のために身を投げ出す人々を、黙って見ていることはできるだろうか。それがどこかの誰かではなく、最愛の人であっても。

主人公の決断に共感できないからといって、単に若さゆえの暴走と切り捨てるだけでなく、科学技術に対するスタンスとして考えてみて欲しい。そして、そんな主人公を娘に持った医療科学者である父親の心を考えて欲しい。皮肉な見方をすれば、育て方が正しかったが故の悲劇。

そういう読み方をしてしまったので、これは科学技術に対する姿勢を極めて残酷な形で問いかける物語だと思った。