物心ついた頃 家ではキツネを飼っていた
物好きの祖父が飼い始めたらしいが 裏庭の檻に中にいて とても臭くて恐かった
その頃 釧路の郊外には 毛皮を輸出するための養狐場があったので
飼うのも珍しくなかったのかもしれない
昔からキツネは化けたり人をだますと言われており 皆が信じていた
家のキツネも人をだますのである 逃げられるはずのない頑丈な檻から
何度も脱走し その度に探していた
父がだまされ 母から聞いた話である
冬の寒い日 仕事の帰り 家はもうすぐなのに いくら歩いても着かない
気がつくと同じ所を何度もぐるぐる彷徨っている
ハッ!とキツネのせいだと思い 街灯の灯る電信柱の数を数え
遠くの目印を見て歩き やっと家に辿り着いた
今なら 酒に酔い朦朧としていたのではないかと思うが
子供の頃はかたく信じていた
祖父が亡くなり 脱走を繰り返したキツネがどうなったか記憶がないが
襟巻には化けなかったようである
最近キタキツネが増え我家の傍までやって来る
裏の河川敷にはキツネの彷徨ったような足跡が沢山ついている
今では キツネは騙すと 思う人はいないようだ
キツネの方も 人懐こいのが多い