年に一度の生活習慣病予防健診の時期が来た。家に届いた受診案内をみると、前年度の検査結果に基づいてピロリ菌感染の疑いがあるのでオプションで内視鏡検査を勧められた。これまで何年も同じ内容の文面で内視鏡検査を勧められてきたが、検査を受けてこなかった。
僕が育った片田舎の小学校の校舎の上に貯水タンクがあった。あの時代、そういう多くの貯水タンクにはピロリ菌が潜んでいるという新聞記事をずっと後になって読んだことがある。おそらく僕の胃の中にピロリちゃんは住みついているんだろうと思う。
しかし冷静に考えてみると、この歳までピロリちゃんは大きな悪さもせずに僕の体の中でおとなしく住んでいたわけだ。昭和、平成、令和と浮き沈みの人生を僕に寄り添って共に生きてきたピロリちゃんだ。喜怒哀楽を共にした同志だ。
今さら、お前は悪いやつらしいからここからすぐに出ていけ、というような薄情な仕打ちはできないし、ハートフルを信条とする僕の主義にもとる。それにこの歳まで悪さをせずにいたのだから、むしろ良いことも少しはしてくれていたのではないかとも思う。ただ今の医学の研究段階では体に益するピロリ菌の働きを解明できていないだけなんじゃないかと疑ってみたりもする。
ピロリちゃんは僕の体の中できっと少しは良いこともしてくれていると信じたい。だから僕はピロリちゃんを積極的に除菌したりしない。ピロリちゃんと一緒にこれからの余生を最期まで僕と仲良く一緒に生きようと覚悟を決めて、今年も内視鏡検査の案内文を破り捨てた。