午前中、懐かしい女性が僕を訪ねて職場に来られた。数ヶ月前にグループ会社を定年退職された人だ。提げた紙袋から何やら取り出されて、僕への感謝の気持ちのプレゼントだとか。
毛糸を編んで作られたニットのパッドだった。リバーシブルになっていて、表はライオンで裏はひまわりのような可愛いいデザインのチェアパッドだ。
15年以上も前のこと、グループ会社の人も含めた会社の仲間8名ほどで槍ケ岳に登ったことがある。今日訪ねてきてくれた人もその時のメンバーの一人だ。
槍ケ岳に登った後、突然その人が膝が痛いと言い出して下山のスピードが極端に落ちてしまい、下山が遅れに遅れた。ヘッドランプを点けて下山を続け、その日は横尾山荘まで下る予定を変更して、全員、途中の槍沢ロッヂに泊まることになった。
そんな苦い登山も今では懐かしい思い出だけど、その人が今日言われたのは、あの槍ケ岳登山は会社に入って一番の良い思い出ですと満面の笑みで謝意を述べられた。
定年まで勤め上げられた人から、一番の良い思い出ですと言われて照れ臭かったけど、その一言は山に連れていった身としてはこの上ない喜びだ。まさにリーダー冥利に尽きる。
僕はあと何年会社勤めを続けることになるかわからないけど、椅子に座るたびにこのチェアパッドを見て、清涼で爽やかな山の空気と力強いエネルギーをいただこうと思う。