1988年に講談社発行の青年マンガ誌『週刊モーニング』に発表された(たぶん)日本で最初に紹介された韓国武侠劇画。
日本の時代劇とも、映画などで既に定着しつつあったクンフー活劇とも異なるテイストを持つ武侠ものの醍醐味を最初に味わせてくれたのがこの作品だった。88年といえばちょうどソウルオリンピックが開催された年。この前後に韓国映画や音楽・マンガなどの韓国サブカルチャーが大量に紹介された頃で、私自身もこの『大血河』掲載前に韓国武侠映画の『斬殺』をビデオで観ていたので《武侠もの》という当時日本では未開拓のジャンルには興味津々だった。韓国らしく「恨」を中心に据えられた重苦しい復讐劇に高校生時代の私はすっかり魅せられてしまった。
ただ、当初からの予定なのか打ち切りなのかは分からないが、最終回がかなり唐突だったのが残念。主人公が次々と様々なキャラクターと関係を作っていくのに対し、結局彼の本願である復讐を成し遂げられなかっただけに…
約半月前にウチの近く…ではなく、かなり遠い場所にあるBOOK OFFで全三巻が105円均一コーナーで出ていたので、即効で購入。邦訳武侠小説なんてチャンスを逃すと、今度いつ出会えるかわかったもんじゃない。この日は他所のBOOK OFFで『金田一耕助の冒険』中古VHSをこれまた105円でげっちゅー。こう安く、しかもいい出物を買える日ってのはなかなかないもんですな。
それで『梟覇』であるが、この本、新刊時代に本屋でチラリと立ち読みした事があって、その時は購入しなかったのだが、改めて腰を落ち着けて読んでみるとこれが面白い!
童顔でありながら性格は冷酷無情、奥義「冥天九剣」を携え江湖に轟く大組織「青龍社」を仕切る《梟覇》こと燕鉄衣の活躍を描いたこの小説は、キャラクターの面白さと謎が謎を呼ぶストーリー展開で武侠小説の楽しさ・面白さを味わせてくれる好編だ。台湾武侠小説の定番である架空の中国を舞台にしているので、金庸作品のように多少の中国史の素養がなくてもスラスラと読めてしまうのがとても良い。ということは日本における武侠小説紹介は大御所・金庸作品からではなく古龍を代表とする台湾武侠小説からのほうがより広がったのではないか?なぁんてタワ言をヌカしてみましたが。誰もが納得する名作もいいけど、箸にも棒にも掛からない何てことはない作品も紹介してこそ、真の武侠小説像が見えてくるのでは?
著者の柳残陽は本文中の紹介文によれば『如来神掌』の原作である『天佛掌』という作品を書いているそうだが、原作って上官虹じゃなかったっけ?と思ったのだが、どうもこの柳残陽作の『天佛掌』を元に書かれているらしい。今の若いクンフー映画ファンには周星馳の『カンフーハッスル』の元ネタとして記憶されトンデモ映画だと思われがちだが、実のところ武林における各門派による対立構造が話の基本なので、「江湖裏社会の闘争」を好んでテーマとしている柳残陽が『如来神掌』原作者でも別に不思議でもないのである。
本日、ヤフオクにて落札した香港の小説誌『武侠世界』が到着した。
『武侠世界』と聞くと古書マニアの方なら、明治末期に発行された押川春浪主筆の雑誌の方を思い出されるかもしれないが、こちらは香港で1959年に創刊され、今年でめでたく50周年を迎えた武侠小説専門誌なのである。表紙にも
「悠久の歴史を持つ全世界唯一の武侠小説雑誌」
と謳われているのだ。
何故この雑誌を購入したか?それは日本における武侠小説紹介があまりにも高尚すぎたものばかりだった為、「じゃあ最底辺の武侠小説ってどんなもんだろう?」と疑問に思ったからである。
たしかに金庸の作品はすばらしい、しかしネームブランド・質共に一級品であるためにちょっと近寄りがたい雰囲気がある。気楽に読むなら古龍のような歴史背景無視・キャラ重視のパルプフィクション的な方が面白い。元来武侠小説(新派武侠小説)とは新聞連載小説で人気に火がついた大衆娯楽小説ではなかったか?
こればっかりは個人的嗜好で申し訳ないのだが、一級品よりも断然私はB級作品を支持する。武侠映画もショウ・ブラザースが大金を投じて製作された作品よりも、初期ゴールデン・ハーベスト武侠片や香港・台湾の数多の弱小プロダクションで製作されたものの方が武骨で好きだ。
それで中身の方は…すみません、中国語がわかりません。ただ、以前紹介したタイ映画雑誌に比べればハードルは低い低い!漢字を読んでいけば大まかなイメージは掴めるもんで。
まだザッと観なんですが、裏表紙に競馬年鑑の広告が載っていることから推測すると、やっぱり武侠小説ってサラリーマンのおっちゃんの読む小説みたいですね。とても若人が熱狂するジャンルとは思えません、雰囲気的に。
●『武侠世界』目次
●中にはここの出版社発行の武侠小説や科幻(SF)小説の単行本の広告が
●この号の巻頭に掲載されていた小説『飛龍琴剣』の挿絵
●本誌掲載の読切小説や連載小説のカットから。いやぁ~武侠してますね!