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武侠片 ~中華幻想剣侠物語の魅力~ ②

2015年10月09日 | 武侠映画
其の二 張徹―暴力の美学 


 キン・フーにより一大センセーションを巻き起こした《新派武侠片》路線を更に推し進めたのが、《百萬導演》 ことチャン・チェ(張徹)であった。
 彼は、それまで女優中心だった武侠映画に露骨なまでの男性主義(マチズム)を持ち出して、それまでにない骨太なチャン・チェ式武侠浪漫を観客に提示した。アクションも決して舞踊的ではなく、もっと力強く泥臭さにあふれたファイトを展開、そしてヒーローたちは復讐や仇討ち等「己の目的」を完遂するまでは幾度となく斬られても立ち上がり、最終的には血の海となった修羅場で、本懐を遂げたヒーローが屍の山に囲まれて闘死するという、《盤腸大戦》 と呼ばれるチャン・チェ独自のスタイルで、それまでの武侠映画では感じ得なかった 《暴力性》と痛快なダイナミズムが社会運動に明け暮れていた1960年代当時の学生や労働者の観客たちから絶大な支持を受け、作品は大ヒットを連発、彼は一躍“時代の寵児”となった。その人気は代表作である『片腕必殺剣 / 獨臂刀』(1967)が、香港映画の興行収入ではじめて100万香港ドルを超えるという偉業を成し遂げた事からも窺い知ることができるだろう。

One Armed Swordsman:獨臂刀(片腕必殺剣) / 1967


Golden Swallow:金燕子(大女侠) / 1968


 またチャン・チェは、自分の元から多くのスター俳優や優秀なスタッフを輩出しているのも特徴的で、ジミー・ウォング(王羽)を筆頭にデビッド・チャン(姜大衛)、ティ・ロン(狄龍)、フー・シェン(傅聲)、チェン・カンタイ(陳観泰)や倉田保昭などは、彼の作品からスターへの道を歩み出し、また武術指導家のラウ・カーリョン(劉家良)やチャン・チェの助監督だったジョン・ウー(呉宇森)は後に独立、やがてそれぞれが香港アクション映画の名匠となった。生涯に多くの人材、そして武侠・クンフー映画の傑作を世に出したチャン・チェは、間違いなく武侠映画史にとって決して欠かす事のできない大人物なのである。

New One Armed Swordsman:新獨臂刀(新・片腕必殺剣) / 1971


其の三 まぼろしの王国―國泰機構

 この章では、直接武侠映画とは関係ないかも知れないが、1950~1960年代にかけて繰り広げられた武侠小説さながらの映画会社同士の覇権争いについて触れたいと思う。

 この当時の香港には、《電影帝国》であったショウ・ブラザーズ(氏兄弟香港有限公司)と東アジア映画界の覇権を巡って争っていた、現在では忘れ去られてしまった幻の映画製作会社が存在した。シンガポール出身の華僑で英国ケンブリッジ大学で学んだコスモポリタンである、ロク・ワントー(陸運濤)率いる国際電影懋有限公司(電懋)である。
 1950年代中頃よりそれまでマレーシアやシンガポールなど、東南アジアで争われていた両社の興行合戦は香港へと場を変え、互いの所属するスター俳優や有能なスタッフの引き抜きなど、激しいやり取りを繰り返し熱いバトルを展開していたが1963年、期せずして同時期に製作していた同一題材の映画の上映がターニングポイントとなり、次第にパワーバランスはショウ・ブラザーズへと傾き電懋は劣勢となっていく。そして1964年、アジア太平洋映画祭が行われていた台湾において、ロク・ワントー夫妻及び映画関係者の乗った飛行機が墜落し全員死亡するという、痛ましい事故により電懋の「息の根」は止められ、東南アジア映画界の覇権はショウ・ブラザーズが掌握する事となったのである。
            
※両者の明暗を分けた黄梅調映画『梁山伯與祝英台』(1963)ショウ・ブラザーズ版ポスター

※ロク・ワントーらを死亡させた飛行機事故を伝える記事

 その後電懋は、國泰機構有限公司と名を変え再出発を図るが、かつてのようにショウ・ブラザーズに「喧嘩を売る」ような勢いはもはや無かった。1966年以降に隆盛を極めた《新派武侠片》ブーム時にはかなりの数の武侠映画が國泰でも製作され、その中には《変化球》的な意欲作も存在したがショウ・ブラザーズ作品のようにブームの中心になるような作品を生み出すことは出来ず、1970年頃にひっそりとその活動を終えた。
 だが、活動を停止した國泰の映画スタジオは、同時期ショウ・ブラザーズを離脱した有志たちにより設立された新会社《ゴールデン・ハーベスト》(嘉禾電影有限公司)のスタジオとして引き継がれ、東南アジア映画界の覇権争いの第二ラウンドが開始されることとなる。
The First Sword:第一劍 / 1967


Escorts Over Tiger Hill:虎山行 / 1969


A Pearl in Command:四武士 / 1969


Mad, Mad, Mad Swords:神經刀 / 1969
※國泰武侠片ポスターのアートワークは、社風からだろうか?欧米並みに洗練されたセンスの物が多い。


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