【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドッラカー経営学の実践編 現場のドラッカー 究極のドラッカー 2407
1983年、東北大学の機械工学科を卒業し、神戸製鋼所に入社します。1995年ころ、円高で競争力の無くなった海外プラント事業部門の企画担当に就任しますが、円高で競争力が無くなってしまった状況を打開する道筋を示すことが出来ず、打開のヒントを得ようと、1996年、米クレアモント大学ドラッカー経営大学院に、会社から派遣され、留学しMBAの資格を取得します。資格取得後の2001年、会社を辞め、コンサルティング会社、Bona Vita Corporation(ラテン語で「良い・立派な」、「人生・旅路」の意味。「人々の幸せな人生のために貢献したい」想いを表す)を設立します。
しかし、1年半ほど収入ゼロの苦渋の時期に直面し、この間、著名コンサルタントのアドバイスにより、経営学の著書を、百冊以上、読み込みます。当時読んだ経営学の著書で、手元に残っているのは殆どがドラッカーの著書とのことです。
その後、コンサルタントとして活動する中で、「ドラッカー経営学」のコンサルタントを探していたI氏が社長をするA社に招かれ、「ドラッカー経営学」をA社の経営の中心に置く会社方針に基づき、コンサルティングします。I氏の経営手腕と著者による「ドラッカー経営学」の浸透により、赤字続きだったA社はV字回復をします。
また、ドラッカーと親交を持ち、ドラッカーの分身と言われ、ドラッカーの著書を多く翻訳している故上田惇生氏から暖かな支援を受け、著者のドラッカー経営学の深化に繋がっています。
著者はこれらの経験を通して、「ドラッカー経営学」の真髄を体感するに至ったのです。ドラッカーの言葉である『「知識」は本の中にはない。本の中にあるものは情報である。「知識」とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である』(「創造する経営者」)の通り、「ドラッカー経営学」の真髄は、実践を通して初めて解るのです。
著者が実践を通して体感した『国貞流「ドラッカー経営学」』は、「ドラッカー経営学」を理解する上で貴重な知見です。
次項で、『現場で実証された「ドラッカー経営学の真髄」』を5つのキーワードで見てみましょう。
■ 現場で実証された「ドラッカー経営学の真髄」を5つのキーワードで解く
著者は言います。『「ドラッカー経営学」は、ハウツーを教えるものではなく、組織社会を生きる人間としての「生き方」と「心構え」について、書かれているものである』と。著者のこの言葉は、『ドラッカーの特徴は、膨大な知識と情報を基にした分析力と論理思考力をベースに、「知覚(Perception、悟る、看破する)」を通して、物事の「本質」を体系的に極めていること』と言い換えることが出来ます。そして、このPerceptionは魂のレベルに於いてなのです。
ドラッカーの著書に、『「マネジメント」― 課題・責任・実践―』(1973年)があります。著書の副題にある、課題・責任・実践の中の課題とは、「課題」(Human Happiness<人間の幸せ>&Legitimacy<正統性>)に加え、「課題」を達成する為のマネジメントの「役割(Tasks)」を意味します。この「課題」と「役割」に、副題の残りの、「責任(Responsibilities)」、「実践(Practices)」を加えた4項目に、ドラッカーの著書「イノベーションと起業家精神」(1985年)で体系化された「Innovation」を加えた5項目が、ドラッカー・マネジメント論のキーワードと言えます。
紹介本では、A社のV字回復した理由を9つ挙げています(詳細は紹介本1.をお読みください)。この「ドラッカー経営学」の実践による9つの成果の要因を分析・集約すると、上記ドラッカー・マネジメント論のキーワードと一致するのです。まさに実践を通して検証された真髄ではないでしょうか。
この5つのキーワードから「ドラッカー経営学の真髄」を以下で見てみましょう。
【「Human Happiness(人間の幸せ)」and「Legitimacy(正統性)」】
ドラッカーは現在の社会を、ソ連崩壊後の「ポスト資本主義社会」と捉えます。その特徴は、企業を始めとした様々な組織が社会を構成し(「組織社会」)、社会の変化に対応して多元化した組織が出現し(「多元化社会」)、主たる資源が資本から知識になる社会(「知識社会」)であるとします。
この様な社会を良くするのも悪くもするのも、組織のマネジメントであるとし、あるべき組織の体系的マネジメント論である「ドラッカー経営学」を提唱しているのです。
「ドラッカー経営学」の根底には二つの原点があります。それは「正統性」と「人間の幸せ」です。
「正統性」は二つあります。それは社会的正統性とマネジメントの正統性です。「人間の幸せ」はマネジメントの正統性の結果です。
まず、社会的正統性です。それは、「組織は高次の規範・責任・ビジョンを根拠とする社会的認知により正当化されねばならない」です。言い換えれば、組織の存在意義が、社会から敬意を以って認知されることです。
次は、マネジメントの正統性つまり組織の存在目的です。それは、「人の強みを生かし生産的なものにする」です。言い換えると、一人一人の持ち味を生かして社会に貢献し、それにより一人一人が自己実現を果たし、一人一人が存在意義を感じ、一人一人の「人間を幸せ」にすることであるとします。これにより、社会全体の「人間の幸せ」を実現し、更には、「人間の幸せ」を基礎に組織が社会に貢献をし、社会を発展させることです。
【「Tasks(役割)」】
次に説明する、Tasks(役割)・Responsibilities(責任)・Practices(実践)について、次のような文脈で表現できます。「誰もが、課題を達成するための役割(Tasks)を持っている中で、その役割を、責任(Responsibilities)をもって果たし、具体的な実践(Practices )を以って、成果を挙げて社会に貢献しなければならない」です。(「マネジメント」の副題である、課題(役割)・責任・実践の基本思想)
課題を達成するマネジメントの役割は3つあります。①自らの組織に特有の目的と使命を果たす。②仕事を生産的なものにし、働く人たちに成果を上げさせる。③自らが社会に与えるインパクトを処理すると共に、社会に貢献する、の3つです。これら3つを「時間軸」で考え、実践していくのが組織の役割であるとドラッカーは言います。
【「Responsibilities(責任)、Integrity(真摯さ)」】
役割を果たすための責任とは何か、ドラッカーの次の言葉が参考になります。「マネジャーに権利などない、あるのは責任だけだ。一人一人がやる気を出すのも責任を与えられた時だ」です。つまり、ある成果を達成するための仕事を「任される」のが責任です。マネジャーは勿論、組織のメンバーの一人一人に与えられます。責任を果たすこと、つまり、仕事を任され⇒自律により仕事を進め⇒成果に繋がり、自己実現をし、達成感を得て、承認され、“人間の幸せ”が実現するのです。責任がなければ成果は上がらず、自己実現の機会もなく、人間の幸せもないのです。
一方、ドラッカー経営学でよく使われる、Integrity(真摯さ)についても触れておきましょう。真摯さは、Integrityの日本語訳である誠実さを超えた、周りから人間的・人格的に、真の信頼を得ることの出来る人間の資質です。一貫性があり、矛盾がなく、うわさや感情に惑わされず、ひたすら責任の遂行に向かって進む、魂レベルの資質です。経営層・マネジメント層の、誠実さや真剣さを証明する最終的な方法は、真摯さです。「真摯な人とは責任を持つ人のことである」(「教養とマネジメント」より)。
【「Practices(実践、成果、目標)」】
具体的な実践(Practices )を以って成果を挙げて社会に貢献するにはどのようにしたら良いのでしょう。
ドラッカーは、『成果を上げるにはまず「行うことを決めること」』だと言いました。つまり、「成果を上げるには、正しい考えを実践(行う)する意思決定をしなさい」と言っているのです。その正しい考えの実践を正しく行うためには、まず、目標を明確にしなければならないとして、「目標を設定すべき8つの分野」を提言しています。
その目標は、 『命令ではなく「約束と責任」(Commitment)』、『“人は責任を担いたい、貢献したい、達成したいと望んでいる”を想定した「目標と自己管理によるマネジメント」』、『“組織の目標”と“個人の目標”の「一致」』を目指すべきとします。
また、マイルストーン(中間目標・重要な節目)毎に、期日、担当者・責任者を目標に織り込み、自身の仕事振りと成果を自己管理により認識・フィードバック出来る目標設定を目指すべきとします。
「目標を設定すべき8つの分野」による「目標の偉力」を見てみましょう。
【「Innovation(More Better(改良)からNew Difference(新機軸)」】
変化の時代に組織が生き延びていくには、イノベーションは欠かせません。ドッラカーはイノベーションについて2つの戦略を提起します。(「イノベーションと企業家精神」19章より)
一つは、イノベーションを生み出す戦略です。具体的戦略としては、「イノベーションの7つの領域・機会」です。また、(ひらめきではなく)体系的にイノベーションを成功させるための要件についての提言もあります。「起業家精神の2つの原理」、「5つのなすべきこと」、「重要なカギ」です。(【図2】参照)
二つ目は、イノベーションの基本戦略です。つまり、『イノベーションそのものが、昔からある商品・サービスにおいても、効用や、価値や、経済的な特性を変えるのである。物理的には如何なる変化を起こさなくてよい。しかし経済的には全く新しい価値を創造する。その為には、「効用創造戦略」、「価格戦略」、「顧客の社会的・経済的現実に合わせる戦略」、「顧客にとって価値あるものを提供する戦略」の4つの戦略を単体又は複合的に実践する必要がある。この4つの戦略には、一つの共通項がある。それは顧客の創造である。顧客こそ事業の目的であり、あらゆる経済活動の目的なのである』です。
この2つの戦略がシナジーして、More Better(改良)からNew Difference(新機軸)に至る、より一層のイノベーションの成果を上げることが出来るのです。
更に、ドラッカーは「この顧客創造戦略は、イノベーションに於いてだけではなく、“マーケティング”の“初歩”でもある」と言います。この“初歩”という言葉の意味は、組織が成果を以って社会に貢献するには、単なる「販売」に停まらずに、顧客創造戦略による「マーケティング」が必須であると言っているのです。
「ドラッカー経営学」を、経営の現場でどの様に活用できるのでしょう。
それは、「ドラッカー経営学」を“To be”として捉え、自社の経営の現状(“As is”)とのギャップを認識し、改善・改革すべき課題を発見し、実践に移していくことではないでしょうか。