【経営四字熟語で目から鱗が落ちる】3-10 日進月歩 情報収集で先見性を持つ 技術や環境が速く、大きく変化する時代
日本の経営者・管理職は、非常によく勉強をしていますが、耳学問が進みすぎて、それらに振り回されすぎているように思えます。いろいろな経営理論を聞きかじり、そのメリットのみが強調されたお話を聞き、消化不良を起こしていることに気がついていません。そのために「知っているつもり」「やっているつもり」という”つもり”が積もっていて、自社にとって最適な方法が提案されても「陳腐な理論」「古い経営手法」というような位置づけでかたづけてしまっている企業が多いです。
四字熟語の中には、【心 de 経営】の精神に則る、経営者・管理職の心の糧になる発想が多数見つかります。前章の思考法を用いながら、それを企業経営に活かすことが、“戦略的”な経営に繋がります。企業経営で欠けている【心 de 経営】をいかに読み解いて、戦略経営を行うかを感じ取ってください。
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~ 技術や環境が速く、大きく変化する時代 ~
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物事が日々進歩しいる様子を「日進月歩(にっしんげっぽ)」と言います。ICT(IT)技術が世の中に誕生してから、技術変化が急速に進むようになりました。その結果、世の中の変化が著しいことを日々の生活の中で感じることがしばしばあります。そのことから昨今では「秒進分歩(びょうしんふんぽ)」とさえ言われるようになりました。
「有為転変(ういてんぺん)」と言いますように、世の中はドンドンと変化をしています。「有為」は「うい」と読みますので、恥をかかないように注意して下さい。もともとは仏教用語で「世の中のすべての現象や出来事、万物の存在」という意味です。仏教では、万物すべてが因縁のしがらみによって生じたものですので、一瞬も留まることはなく、変化して行き、移ろい、変化しやすく、はかないということが基本にあります。「転変」は、古くは「てんべん」とも読みますが「万物が生滅・変化すること。うつりかわること(広辞苑第六版)」という意味です。類語として「有為無常(ういむじょう)」や「諸行無常(しょぎょうむじょう)」があります。
「烏兎怱怱(うとそうそう)」という四字熟語も「烏兎匆匆(うとそうそう)」も、月日の経つことの速く、慌ただしいことをさします。「烏兎」は烏と兎のことで、中国では太陽の中に烏が、月には兎の形があると言われています。このことから「烏兎」は太陽と月、すなわち「月日」をさし、「怱怱」は慌ただしい様子を指しています。
一九九〇年代前半に、ビル・ゲーツ氏が「スピード経営の時代」という言葉を再三使っていましたように、昨今では意思決定の迅速化が求められようになりました。日本企業のグローバル市場での存在感が薄くなった原因のひとつが、意思決定速度の遅さであると言われています。それが言われていながら、お役所も、大企業も遅々として意思決定の高速化という点での改善が進んでいないように思えます。
このように、知識として持っていながら、結果として出てきていないという状況は、企業内でもしばしば見られます。私は、別項でも記述していますが「あたり前のことがあたり前にできる企業作り」ということを掲げて経営コンサルタントという仕事をしてきました。
企業は経営コンサルタントなど専門家に対して、「自分達が知っていることを教えてもらいたいのではなく、知らないこと、高度なことなど、自分達の手に負えないことを教えて欲しいのだ」ということを求めることが多いです。ビギナーゴルファーが、プロゴルファーのスイングをまねしてもうまくいきません。しかし、企業の現状を見ますと、それをやりたがっています。
日進月歩とか秒進分歩ということに逆行するように見えますが、自社の現状をキチンと把握し、身の丈を知り、それに合わせた経営をすることで、企業の基礎体力を付けることをお薦めするようにしています。基礎体力ができますと、新しいことに挑戦しても消化できるようになるのです。日進月歩という言葉は、「近道より遠回りの方が先に目的地に着く」という逆説的なことも教えてくれているように思えます。
自分自身を見極め、時代の流れを読みながら経営戦略を立てるお手伝いを私はやってきました。その時に、時代の流れを体感しながら、先見性を養って欲しいと願って企業経営者・管理職とお付き合いをしてきました。それには「耳目(じもく)」を働かせることが重要です。経営コンサルタントを始めとする、経営の専門家には、経営者・管理職が、そのために時間をかけすぎて、本来的な経営者・管理職としての仕事がおろそかにならないように、支援できなければなりません。
経営コンサルタントをめざす人から時々訊かれることの一つに、「どのような性格の人が経営コンサルタントに適していますか?」ということがあります。
私の口癖の一つは、「経営コンサルタントは、お節介役であるべき」ということです。お節介というのは、相手に頼まれなくても、相手のためになっているだろうと思われることを行動に移すことです。すなわち、相手が何を欲しているのかを推量し、それに対して頼まれもしていないのに何かをしてあげるのです。企業経営におきましても、管理職による部下管理におきましても、これが言えると思います。
相手のニーズにマッチした推量でありますと、「あなたはよく気のつく人ですね」と誉められたり、感謝されたりします。一方で、こちらがよいと思ってやってやったことが、相手のニーズにあっていなかったり、タイミングが悪かったりすると「余計なことをしてくれて・・・」といやがられてしまいます。
1990年代に、当時のマイクロソフトのビル・ゲーツ会長が「スピード経営」の重要性をさかんに説きました。日本企業は稟議制度などにより、意思決定が遅いとしばしば言われます。「巧遅拙速(こうちせっそく)」とか「拙速巧遅(せっそくこうち)」という四字熟語が孫子に出てきます。孫子ですから、兵法用語なのですが、「巧遅」は、「仕上がりは良いのですが、出来上がるまで時間がかかる」ということです。逆に「拙速」は、「仕上がりは今ひとつ満足できる状態ではないが、期日通りなど、時間要素面では優れている」という意味です。このことから「巧みで遅いよりは、稚拙でも必要な時期までに完成する方が良い」という意味で用いられます。
「飛耳長目(ひじちょうもく)」という四字熟語があります。耳を飛ばし、目を長く(大きく)して情報を収集できる人や能力のことです。すなわち、優れた観察力を持っていたり、情報集能力に優れていたり、博学であって全てに精通していることを意味します。
私の口癖の言葉に置き換えますと「アンテナの感度と量」ということになります。たとえば企業を訪問したときに玄関の傘立てに傘が何本か置いてあったとします。ある人は、それを見て、「万一、雨が降ってきたらすぐに傘を差して出かけられる、準備の良い会社」というように思うかもしれません。ところが別の人は「天気の良い日に傘立てが置いてあり、ましてや何本か傘が残されたままというのはだらしのない企業ではないか」というように考えるかもしれません。
一つの現象でも、見る人により見方が異なっていますが、「これがアンテナの感度」です。
話は変わりますが、野辺山に東京大学の電波望遠鏡があるのをご存知の方も多いと思います。そこに行ってみますと電波望遠鏡が一つあるのではなく、十数基が置かれています。アンテナの数が多いことで、より広域な、より多くの情報を収集できるのです。
「日進月歩」や「秒進分歩」と逆な意味合いを持つのが「十年一日(じゅうねんいちじつ)」という四字熟語です。直訳的には「十年があたかも一日のようである」だという意味ですが、「十年一日のごとし」という形で用いられます。
このことから「何年経っても相も変わらず同じことをやったり、状態が続いたりしていて、変化も無ければ、前進や進歩もない」ことをいいます。代わり映えがしない意味でも使います。別の四字熟語に「旧態依然(きゅうたいいぜん)」というのがあります。
世の中の成長が多きときには、企業が十年一日、旧態依然とした経営をやっていては、相対的には縮小の方法に向かっていまいますので、自社の現状をキチンと把握した上で、時代に即した経営管理ができるようにして行きたいですね。
日進月歩の時代に、取り残されないためには、近道を求めるよりは、オーソドックスに「飛耳長目」により、地に足がついた経営から始めることをお勧めします。
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