■【成功企業・元気な会社・頑張っている社長】 レーザーでインフラ点検を自動化 3301-4905
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■ レーザーでインフラ点検を自動化 3301-4905
2012年12月に中央自動車道で発生した笹子トンネル崩落事故。トンネルの天井コンクリート板が138メートルにわたって落下し、複数の車が巻き込まれて9人が亡くなった。こうしたインフラ事故を繰り返さないために、理化学研究所や量子科学技術研究開発機構(QST)などで構成する研究チームは、レーザー技術を用いてトンネルの老朽化を点検する技術を開発。この成果を事業化するために17年に設立されたのが、理研発ベンチャーでQST認定ベンチャーでもあるF社(埼玉県和光市)である。
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道路トンネルの老朽化点検方法はこれまで、高所作業車に乗った検査員がトンネル天井を目視して危険箇所を推定し、ハンマーでコンクリート表面をたたいて、音の違いで判断していた。コンクリートの剥離や浮きなどの異常と判断すれば、除去・補修する。ただこの方法だと、点検作業そのものに時間がかかるほか、検査員の経験と勘に頼るため、判定結果に個人差が出る。高所作業に伴う墜落の危険性があるという弱点もあった。
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これに対し、理研などが開発した「レーザー打音検査装置」は、コンクリート表面に毎秒10~50回のパルスレーザーを照射し、欠陥箇所を画面上にマッピング表示する。「ハンマー」に相当する振動励起レーザーと、「耳」に相当する振動計測レーザーの2種類を用いてトンネル表面の振動を解析し、内部欠陥による「共振」が起これば、打音異常と判定する仕組みだ。これにより、検査員の技量差を解消できるほか、劣化の進行度を予測することも期待できる。遠隔・非接触で点検するため危険性は低く、作業時間は4分の1、コストは3分の2に短縮される見通しだ。
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「従来のハンマーによる打音検査は、どのような音なら異常なのかという定量的な基準がなかった」。こう振り返るのは、F社のK社長。異常かどうかの判断は、検査員の勘と経験に委ねられる "暗黙知"の世界だった。そこで研究チームは、人による打音検査作業を撮影し、人がどうやって判断しているかをデジタル化。人の判定基準と同等以上の能力を持つAI(人工知能)を組み込んだ判定ソフトの開発に成功した。
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日本の道路トンネルや橋梁などのインフラは、高度経済成長期の1960年代から70年代に建設されたものが多い。完成後50~60年は経過しており、老朽化対策は待ったなしだ。半面で、点検の担い手となる検査員の高齢化と人手不足は急速に進んでいる。検査員の勘と経験をデジタル化し、人と同等以上の診断技術を確立してインフラ点検を自動化しなければ、全国に総延長約5000キロメートルもある道路トンネルの点検は進まない。
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K社長はF社の設立前は、機械メーカーでの勤務や技術系コンサル会社などの経営を経験しており、「BtoB(企業向けビジネス)やBtoC(消費者向けビジネス)の世界ではある程度の成果を挙げた」と自負する。「今度は理研・量研という国家プロジェクトの世界では最高のブランドとコラボレーションして、BtoG(政府)toP(国民)というまったく新しいビジネスモデルに挑戦する」と意気込んでいる。
出典: e-中小企業ネットマガジン