とある高級ホテルの23階。長いカウンターがあり、高級なお酒が綺麗に並べられている。カウンターの中には二人の若いバーテンダーがグラスを拭いている。
その横では、六人のオーケストラのジャズの生演奏が奏でている。静かなモノトーンの音色に酔いしれているお客達。向かい側には、ガラス窓があり、夜色の中に街の光が映し出されていた。
カウンターの席に座っている綾小路寿久。ピンクのシャツに黒のジャケットで、薔 . . . 本文を読む
クリスマスイブ、ケーキ屋の店内は女性客が多く、賑やかで、カウンターの上には、小さなクリスマスツリーが飾られてある。
ラジオからは、BENIが歌う英語バージョンのクリスマスイブが流れている。山下達郎の声も好きだけど、BENIもいいなと思って歌を聴いていると、今から会う彼氏の顔を想像していた。聖なる夜を一緒に過ごすのだ。
並んでいる順番が回ってきて、まつ毛がクリッとした目の大きい愛想のいい店員か . . . 本文を読む
学校をさぼるなんて私らしくない。通学途中で、足が止まった。父親の期待を背負って、近所で有名な進学高校に入ったのはいいが、私より頭が良い友達と話が合わなくなり、うまくいかなくなった。そして、今日は期末テストで、高校2年生では大事なテストだった。昨日は徹夜で、勉強をした。クラスで中間くらいの成績では、いい大学に入れない。がんばって勉強してるが、無理がある。
学校に向かう途中、他の生徒の団体が、教科 . . . 本文を読む
前川るり子17歳は、片付いた部屋の鏡に向かっていた。
前の学校もうまくいかなかった。いつも担任の先生から言い寄られてしまう。私の美貌がそうさせるから仕方のない事だ。
子供の頃からそうだった。小学6年生の頃、大学生の男の人から告白された事があった。
私が小学生に見えないと言う事で、驚いていたけど、別に驚かせるつもりはなかった。
男は、なぜこんな顔が好きなのだろうかと鏡をじっと見る。別にどこ . . . 本文を読む
夕暮れ時、とある町外れにある橋の上、綾小路寿久は口笛を吹きながら歩いていた。鼠先輩というふざけた名前の歌手の曲を通りすがる車の音に合わせてリズムをとっていた。
橋の途中で、黒髪のショートカットがよく似合う女の子が海の方を見ていた。綾小路が側を通ると、泣き声が聞こえた。綾小路は、泣かせる男とゴキブリがこの世の中で一番嫌いだったので話しかけた。
「誰だい。君をそんなに泣かせるのは。」女の子は、振 . . . 本文を読む
自分の部屋に戻ると疲れていたのかいつの間にか寝ていた。
君と出会ったのは、五年ほど前になる。もうそんなになるのか。
海が見える家に住んでいたね。
俺が海で声をかける女の人から振られるのを見ていつも君は笑っていた。
毎日毎日その姿を見に来ていたから、三日目くらいに声をかけたんだ。
「そんなに笑う事ないだろう。」
「だっておかしいんだもん。」
「何がだよ。」
「やり方がまずいんじゃな . . . 本文を読む
住んでいる都会から車で一時間行った所に海が見える田舎町がある。そこを抜けると大きな墓地がある。戦争で死んだ人が埋まっていると聞いた事があった。
墓地の上の方に段差があり、小さな墓石がある。側の海が見える展望台があり、静かな波の音が聞こえてくる。
薔薇の花束を持って墓の前にいる綾小路寿久。茶色のジャケットが海の風に揺れていた。
「久しぶりだな。ここに来るのは何年振りだろう。だけど、君を片時も . . . 本文を読む
冬休み、小学4年生の勇樹がある男を探していた。
名前は、綾小路寿久。毎年、母親に真っ赤な薔薇と一緒にお年玉を送ってくれる男だ。中味は千円だが、母親と勇樹は嬉しかった。
その病弱な母親が入院している。
ただ一目でいいから寿久さんに会いたいと寝言の様に言っていたので、勇樹がこっそりと探しに来たのだ。
薔薇についているマンションの住所を探し出した。呼び鈴のボタンを押しても誰も出てこなかった。
. . . 本文を読む
まったく何で俺がサンタクロースの恰好をしているんだ。男は、自分の姿を上から下まで見下ろして思った。こんな事なら、バーバリーのコートを持ってくればよかったと後悔した。
そもそものはじまりは、部屋の隣に住むかわい子ちゃんから、「あなたサンタクロースにならない?」なんて言われたからだ。
本当にする事ないだろうと嘆きつつ、子供達にプレゼントを配っていた。
プレゼントといっても小さな袋に詰めたお菓子 . . . 本文を読む
とある街角で佇む男。長身で黒いジャケットを羽織り、タバコを吹かす姿が夕日に溶け込んで、絵になっている。
今日はどのカワイ子ちゃんと遊ぼうかなと目を凝らして見ていた。
まるで獣。野良犬。蛇男。
いい男のはずなのに女達は見向きもしない。
きっと仕事や家庭に忙しいのだろう。
街行く人々は冬の空をただ風とともに通り過ぎて行くだけだった。
「今日は駄目だな。」と呟き、カフェテラスで一息つくこと . . . 本文を読む
病院の一室。
木に止まっている小鳥が鳴く中、明菜は外の景色を何かを探すかのように上の空で眺めていた。たった一人の幼い弟が目の前で交通事故で死んで心にポッカリと穴が開いたのだ。
あの時、死んだのは私の方がいいとさえ思っていた。
そんなある時、隣に頭と腕と片足に包帯を巻いた若い男が入って来た。
名前は難しい字でベッドのネームプレートに書いてあったが明菜は読むことが出来なかった。
その男は馴 . . . 本文を読む