おいらは、ご主人様と離れ離れになってとても悲しんでいる。散歩の途中で行方不明になっちゃった。
ご主人様とは言っても子供だけどおいらの事を一番理解している人間なんだ。
なぜ行方不明になったのかって、それはおいらが可愛い彼女を見つけて夢中で走って追いかけていったら、へんてこな道に出てはぐれちゃったというわけさ。
探しに行くのもなんだから、少しの間待ってみる事にした。
おいらが待っていると学生 . . . 本文を読む
私の店には不幸な人しか来ない。
今日も不幸な人が店に入ってきた。
マスターは快く迎える。
「いらっしゃいませ。」そのお客様は男の人で、ボサボサ頭でスーツがクシャクシャだった。
「何もかも忘れられるお酒下さい。」いきなり悲しそうにマスターに頼んだ。
「失恋でもされたんですか。」マスターが聞く。
「僕の話を聞いてくれますか。マスター」男の人が強い口調で言った。
「えぇいいですよ。喜んで . . . 本文を読む
車や人通りが多い四つ角の交差点がある。信号が赤に変わると人や車は立ち止まり、信号機の真正面にある店に目がいくのであった。
店の名前は「ピエロ」人形屋敷なのか。喫茶店なのか。よく分からないが、誰一人として店の中に客はいなかった。
それは、窓越しに見える椅子に座っている奇妙なピエロが目立っているからだ。ピエロは、小学生くらいの身長で、中から照らされているライトでボンヤリと光り輝いて、いつも不敵な . . . 本文を読む
今日は三年に一度、満月が地球に寄ってきて、月がとても大きく見える日だった。自分のすぐ側にあるように月がボンヤリ輝いていた。
テレビのニュースではこの世の終わりみたいな事を言っていた。本当にこの世の中が終わってしまうのだろうか。色々な事を考えてサキと別れた日の事を思い出していた。
あれは三年前。月が綺麗な夜の公園で、サキが勉強の為に留学すると言った。三年間も逢えないなら別れた方がいいよねと言っ . . . 本文を読む
今日もお気に入りのサブちゃんの歌に合わせてトラックで道路を走っている。昔から演歌が好きだった。特にサブちゃんは大ファンだ。
バックミラーにはサブちゃんのストラップもついている。今年十二歳になる娘洋子からもらったものだ。俺がサブちゃんのファンと知っていてプレゼントしてくれた。携帯につける物だと言ったが携帯なんて持ってないから、バックミラーにひとまずつけていた。
ハンドルの所には愛しの家族の写真 . . . 本文を読む
君を見るとただせつない。
自分の存在がちっぽけに思えるほど君の存在は大きい。
大きすぎて君の姿が目に入らない。
目を向けようとすると何かが邪魔をするのだ。
冷たい風が邪魔をするのか。
彼氏の存在が邪魔をするのか。
恥ずかしいだけなのか。
目が勝手に違う方向を見てしまうのだ。
いつも君は風のようにさわさやかに横を通り過ぎて行く。
すれ違う時、母親の様な太陽のような暖かい匂いがした . . . 本文を読む
赤とんぼの群れが飛んでいる。夕日が空からゆっくりと落ちている。もう日が暮れるのが早くなった。近所の家からは賑やかな家族の声が聞こえてきた。
もう帰らないと行けない。冷たい風と一緒に帰る時は寂しい気持ちで悲しくなるのはなぜだろう。
僕は塾が終わっていつものようにミキと話していた。
「今日、難しかったよね」
「あれってヤッパリ難しかったの」
「とぼけちゃって」
「あはは」本当に難しい問題 . . . 本文を読む
いつも穏やかな笑顔を浮かべている中村さんが大好きだ。
近所のおじさんで歳は四十歳で、髪の毛は薄くて体格ががっちりとしている。
愛想がよく、近所の人達からもいい人と評判だった。私とすれ違う時も必ず感じよく挨拶をしてくれた。
街角で、お年寄りの集団と話しをしているのをよく見かけた。お年寄りと話すのが大好きな様子でいつも笑っていた。
体から湧き出てくるオーラがあり、包容力溢れる人なのだ。
中 . . . 本文を読む
一年に一度のせつない風が胸をかすめていった。
夏が終わると少し冷たい何とも言えない風が吹いている。秋の始まりを私達に教えているかのように胸に鋭く突き刺さった。
この風が吹くとタバコ屋の洋子の事を思い出す。
あれは、50年前。
洋子は高校生で私は大学生だった。
おさげ髪がよく似合っていて、笑顔が素敵だった。私がタバコを買いに行くといつも笑顔で挨拶をしてくれた。タバコ屋の娘だった。私が毎日 . . . 本文を読む