毎日毎日、残業である。14連勤は当たり前、過労死寸前で、疲れていても眠れない。
上司からは罵られ、殺したくなる。
不眠症になってどれくらいたっただろうか。
1年、いやこの会社に入ってからだから3年くらいだろうか。鏡を見ると死んだ親父にそっくりで、頬はこけて、目の下にくまが死相の様に出来ている。
フラフラと会社を後にして、帰る。
深夜1時、この時間だと電車もバスもないだろう。
家まで、 . . . 本文を読む
無精ひげを生やし、ボロボロの服を着たうだつの上がらない男は、土手の川沿いで風景の絵を描いている。
ススキとトンボを描き、橋を後ろに描いている。川も入れるか入れないかどうか考えている。
今日は、日も暗くなったので帰る事にした。
橋を渡ると、目の前に質屋がある。看板は傾き、蜘蛛の巣が窓の外に張り巡らされている。丁度蛾が飛んできて、蜘蛛の巣に引っかかった。その姿を見て、男は社会の縮図だなと感じた . . . 本文を読む
サマーホテル23階の会場で、高校の同窓会があった。30年ぶりに見る顔は、白髪と顔には皺が目立つ同級生が多い。
私は、昔から老けているように見られていたから、今は少しだけ若く見えるのかもしれない。
隣で、ビールを飲んでいるサトルが話しかけてきた。昔は坊主だったが、今は茶髪に染めている長い髪が印象的だ。
「飲んでるか?」
「あぁ、飲んでるよ。」グラスとグラスを重ねた。重ねるときパきっという音 . . . 本文を読む
古びた校舎。
キーンコーン。カーンコーン。
授業のベルの音。細長い廊下。
教室。綺麗に並べられた机。
教卓。黒板。壁に貼られた連絡事項。
そして、真ん中に先生がいた。
十年前に卒業して、色々あったけど、またこの学校に戻って来る事が出来た。
学校に入ると、制服を着た無邪気な生徒から「先生。おはようございます。」と言われる。
私も「おはよう。」と慣れない挨拶をすると、生徒から笑われ . . . 本文を読む
ザァザァと外は大雨が降っている。雷も遠くから鳴り響いていた。
今日の体育の授業は、体育館でバスケでもあるのだろうか。
僕はボンヤリと運動場を窓から見ていた。運動場は、雨で水溜りが所々に出来ていて、二階からは日本地図の様に見えた。
お昼休みが終わり、体育員が大声で「次の体育は体育館であります。」と叫んでいた。
それを聞いて喜ぶ生徒もいれば、サッカーが良かったのにとため息を漏らしている生徒も . . . 本文を読む
ナナコに告白をして、一週間が過ぎた。毎日顔を合わせているが、中々答えを聞き出せなかった。
ナナコも私と顔を合わせるのが辛そうだった。辛いなら答えてくれたらいいのに恥しいのだろうか。
今日、思いっきって聞くことにした。いつものように仕事が終わってから、玄関の前で待ち合わせをしていた。
「お疲れ様。この前の返事を聞きたいんだけど。」
「あれから色々と考えたんだけど、私達やっぱり友達でいましょ . . . 本文を読む
スズメの鳴き声が聞こえて来て、目が覚めた。周りを見渡すと、自分の家ではなさそうだった。手を伸ばして欠伸をしていると、布団の中からナナコが寝返りをうっていた。ナナコは、上半身下着姿でいた。私の方も上半身裸だという事が今になって分かった。
私は驚いてトイレに向かった。鏡を見るとひどい顔をしていた。昨日の記憶がまったくない。あれから、どうしたんだろう。
トイレの鏡に向かって考えていると、三人で居酒 . . . 本文を読む
何をしても彼女の事で頭が一杯だ。
本を読んでいる時も、映画を見ている時も、友達と遊んでいる時も、ご飯を食べている時も、トイレに行っている時も、彼女の姿を思い出して行動が出来なくなってしまう。
たえ間なくため息が口から出てくる。彼女の笑顔が目の前に現れ、何か囁いてため息と共に消えていく。
彼女の姿を思い出すと、せつなくて、苦しくて、わーと叫びたくなるような気持ちになってしまう。
本当に胸 . . . 本文を読む
私は今までずっと愛を探していたような気がする。
愛とは何か。親子愛。友達愛。恋人同士の愛。夫婦愛。ペットの愛。愛は数えれないくらい莫大な財産だ。
皆さん愛をたくさん使おう。
使って使って消費税がかかるくらい使ったら愛が溢れて住みよい世の中になると思う。
最近思ったんだが、愛というものは相手の為に思いやり、見返りを求めないのが愛なのではないか。
ただ側にいるだけで幸せになるような、その人 . . . 本文を読む
おいらは、ご主人様と離れ離れになってとても悲しんでいる。散歩の途中で行方不明になっちゃった。
ご主人様とは言っても子供だけどおいらの事を一番理解している人間なんだ。
なぜ行方不明になったのかって、それはおいらが可愛い彼女を見つけて夢中で走って追いかけていったら、へんてこな道に出てはぐれちゃったというわけさ。
探しに行くのもなんだから、少しの間待ってみる事にした。
おいらが待っていると学生 . . . 本文を読む
私の店には不幸な人しか来ない。
今日も不幸な人が店に入ってきた。
マスターは快く迎える。
「いらっしゃいませ。」そのお客様は男の人で、ボサボサ頭でスーツがクシャクシャだった。
「何もかも忘れられるお酒下さい。」いきなり悲しそうにマスターに頼んだ。
「失恋でもされたんですか。」マスターが聞く。
「僕の話を聞いてくれますか。マスター」男の人が強い口調で言った。
「えぇいいですよ。喜んで . . . 本文を読む
いつも穏やかな笑顔を浮かべている中村さんが大好きだ。
近所のおじさんで歳は四十歳で、髪の毛は薄くて体格ががっちりとしている。
愛想がよく、近所の人達からもいい人と評判だった。私とすれ違う時も必ず感じよく挨拶をしてくれた。
街角で、お年寄りの集団と話しをしているのをよく見かけた。お年寄りと話すのが大好きな様子でいつも笑っていた。
体から湧き出てくるオーラがあり、包容力溢れる人なのだ。
中 . . . 本文を読む
一年に一度のせつない風が胸をかすめていった。
夏が終わると少し冷たい何とも言えない風が吹いている。秋の始まりを私達に教えているかのように胸に鋭く突き刺さった。
この風が吹くとタバコ屋の洋子の事を思い出す。
あれは、50年前。
洋子は高校生で私は大学生だった。
おさげ髪がよく似合っていて、笑顔が素敵だった。私がタバコを買いに行くといつも笑顔で挨拶をしてくれた。タバコ屋の娘だった。私が毎日 . . . 本文を読む