私が高校の非常勤講師を辞めて、もう5年の月日が経った。人の記憶というものはなんてちっぽけなものだろう。
好きなNの事なんて完全に忘れていた。私の歳も30歳になった。今は、サラリーマンをしている。
相変わらず彼女という人はいないけど、毎日生きる幸せを噛み締めて生きている。仕事があるだけでいい。
なぜ最近になって非常勤講師をしていた頃を思い出したかというと、営業で学校に訪問をした時、教室の黒板 . . . 本文を読む
私の恋は幻だったのではないだろうか。
長い夢を見ていたんではないだろうか。
きっと長い長い夢を見ていたんだ。先生という職業も夢で、生徒との会話も夢だった。
初めから彼女は存在してなかったと思ったほうが楽になった。
心の病気で入院したNはどうなったのだろうか。妊娠した話しは嘘だったのか。本当なのか。私には考える余裕もなくなった。
私はNが心配で、何度携帯番号を押そうとしたか。自分の携帯を何 . . . 本文を読む
一年も経つのに、今でもNを好きな気持ちは変わらない。電話がかかってくるかなと思っていたら、電話がかかってきた。
「先生、妊娠した」悲しい声ともうれしい声とも聞こえて取れた。ただ、迷っているような声だった。私は何がなんだか分からず、無言のままずっと聞いていた。その時間は、十分、一時間、一年、十年くらい、時が止まってしまったかのように無言だった。
このまま、Nの声をじっと聞いていてあげたかった。 . . . 本文を読む
Nが転校して来てから、随分と時間が過ぎたような気がする。告白して、拒絶はされたものの、少しずつだが、私と話してくれるようになった。
Nが授業中、「先生、生きるって何?」小さいかすれた声で聞いてきた。いきなり何を言い出すのかと思ったが、彼氏のことや、家族のことを知っている私は答えたかった。
「今は、人生80年です。昔は50年でした。その中で、悲しいことや辛いことがたくさんあって、その中から、少 . . . 本文を読む
私は、所詮恋に憧れを抱いていたのではないだろうか。あんなにかわいい人と付き合えたらどんなにいいだろう。いろんな話をじっと顔を見て聞いてあげたかった。
彼氏に借金があり、ヤクザからも追われていて、夜逃げをした。Nは、彼氏のことを考えて泣いていた。かわいい顔が台無しになるくらい泣いていた。
学校でも、彼氏から連絡があっただけで、泣いていた。この世の終わりみたいに泣いていた。Nが泣くと洪水で世の中 . . . 本文を読む
それから、電話のやり取りが続き、私のほうからも電話することもあった。電話代が月に五万円くらい使っていた。非常勤講師の給料は、あまりもらえないのに、馬鹿なことをしたと後悔した。生徒の悩みを聞くということでは先生として、いい事をしているんだなという充実感もあった。
毎日、真夜中に電話するにつれ、気持ちは募るばかりだった。
急に二人の関係が終わるように感じた。彼氏が夜逃げをするという話しがでていた . . . 本文を読む
Nに彼氏がいるのが分かった。授業中、ゴキブリの話しが出て、なぜ、ゴキブリの話しになったかは分からないが。Nの彼氏の家もゴキブリが出て大変だという話しになった。心の中では、やっぱり彼氏がいたんだ。彼氏。彼氏。彼氏。頭でこだました。目の前が真っ白になった。砂漠で一人取り残されたらこんな気持ちになるだろうなと考えた。ショックで言葉にならなかった。こういうことなら、ゴキブリの話しなんてしなければ良かった . . . 本文を読む
私は、高校の非常勤講師をしている。
はじめはうまい具合に授業をこなしていた。授業の時間配分もばっちりで、いつも時間通りに授業を終えることができた。いつどこで、何が間違ったのか。私は、今一人の高校生に翻弄されている。
その子(N)は、一年の中間に転校してきた。他の先生たちの話では、いい子が来るとだけ分かっていた。どういう子が来るのかはまったく知らされてなかった。女の子が来るということだけは分か . . . 本文を読む