今夜は白夜。真夜中なのに昼の様に明るい。月を見るとダイヤモンドのように輝いていた。かぐや姫が天に帰る時がこの日だったと言われている。
100年に一度あるかどうか分からないこの現象。世界では拝む人がいたり、散歩に出たりしている。
古びたマンションの一室。
老人が座り心地が良い椅子に毛布を膝にかけて座っている。
私は随分と歳を取った。もうそろそろ約束の期間は過ぎただろうか。
あれはいつだっ . . . 本文を読む
薄気味悪い月夜の晩。静寂の中に時々犬の鳴き声が聞こえてくる。
提灯のボンヤリとした薄暗い明かりと塀に埋め尽くされた黄色の菊の花。
そこはまるで異次元空間のように違う世界に思われた。
葬儀屋をして大分月日が経った。人の死に関わる仕事をして本望だ。
葬儀屋はけして笑ってはいけない。いつでも暗い顔で接していかないといけない。
例え、葬式の顔写真で禿げた人が写っていようが、唇が腫れていて、道端 . . . 本文を読む
パカパカパーン。結婚式場でファンファーレが鳴り響いた。
鉄は結婚式に呼ばれていた。友人代表でスピーチをする為だ。
三ヶ月前くらいに高校の友人の芳樹から電話がかかってきて、結婚するからスピーチを頼むと言われてこうやって来たのだった。
ただ問題なのは、高校の頃から好きだった瞳が芳樹の相手だということが気にかかっていた。
芳樹もよく分かっているハズなのになぜ鉄を友人代表でスピーチをさせるのかが . . . 本文を読む
ガタン。ゴトン。快速電車がゆっくりと動き出した。
平日に乗る電車は人が少なかった。
修は仕事が休みで実家に帰っていた。
アナウンスでは、車掌がお年寄りに席を譲る様に促していた。
修は車窓から見える景色をぼんやりと眺めて会社の事を考えた。
最近研修生の指導係についた。休みの時くらいは仕事の事を考えまいとしても考えてしまう。そんな事を考えていると、自然と眠気が襲ってきた。
あっという間に . . . 本文を読む
それから3年後。
準は、ビシッとしたスーツに身を包んで、よりこの成人式に出席していた。
三年前の約束を果たすためだ。
文化センターの館内は広く、千人くらいの成人がこの日を迎えていた。市の偉い人が何人か挨拶があった後、よりこが成人代表でスピーチをしている。
振袖を着ているよりこは、読者モデルのように綺麗だった。
挨拶が終わると、市長が礼をして、よりこがステージから私たちの方を見て、微笑 . . . 本文を読む