３．る～ず。

　前川るり子１７歳は、片付いた部屋の鏡に向かっていた。
　前の学校もうまくいかなかった。いつも担任の先生から言い寄られてしまう。私の美貌がそうさせるから仕方のない事だ。
　子供の頃からそうだった。小学６年生の頃、大学生の男の人から告白された事があった。
　私が小学生に見えないと言う事で、驚いていたけど、別に驚かせるつもりはなかった。
　男は、なぜこんな顔が好きなのだろうかと鏡をじっと見る。別にどこにでもある顔。確かに鼻は人よりも高くて、悩みすぎて人よりも華奢な体ではあるが、普通の高校生である。
　そう言えば母親も結構モテテいる。父親も三人変わった。血筋と言えば血筋なのだろう。
　今の父親は嫌いだ。
　酔っぱらうと私の胸や足を触ってくるのだ。身震いがする。吐き気もする。
　だけど、父親のお陰でちゃんと暮らせるし、学校も行ける。３回も違う学校に行かせてもらっているのだから、別にいいかなとも思う。
　２階の窓をそっと開け、机の引出しに閉まってあるマルボロメンソールライトを取り出し、一本に火を点けた。少し冷たい風が入り込む。父と母に見つからないように煙を外にそっと吐き出した。
　明日から、また学校だ。次の学校はチャンと行けるかな。変な教師はいないだろうなと思って早目に寝る事にした。
　次の日の朝、母から起こされ、ご飯を食べる。
　父が静かにテレビを見ている。母は、鼻歌を歌って機嫌が良い。
　昨日は、二人イチャイチャと夜遅くまでしていた。声が二階まで筒抜けである。
　もうこんな偽善ぶった家族なんてウンザリ。
　「それじゃ、行ってきます。」バッグを持って、新しいブレザーの制服を着て、お気に入りのルーズソックスを履いて、玄関のドアを開けた。
　父がいつの間にか玄関の所に立ってて、私のお尻を撫でる様に押した。
　「きゃっ。」
　「いってらっしゃい。頑張れよ。」セクハラ親父。気持ち悪い手の感触を後にして、学校へと向かった。
　歩いて１０分くらいの所にその学校はあった。
　親和学校と看板が立てかけられてあり、５階建てマンションのようだった。玄関を入ると、すぐに職員室があり、太った先生と、事務員の様な女の人がいた。その女の人から２階の教室へと案内された。
　どうやら私が一番のりのようだった。
　教室は、普通の学校と変わりなく、教壇があり、黒板があり、机が６個きれいに並べられてある。
　このクラスは６人しかいないのだろうか。
　ひとまず、自分の名前が書いてある机に座っていた。
　８時３０分になると、慌ただしく駆けつけてきた黒いスーツを着た男の人が入ってきた。
　黒板に向かって、チョークで書いている。
　「９時校長挨拶。１０時掃除。１１時下校。」下手くそな字だった。一通り書き終わると、私の方を見て、「ウフェ。うふぇ。」と不気味な笑い方をした。
　「君可愛いね～。名前なんていうの。いや違うな。私はこれから先生になる事になった綾小路ティーチャーだよ。よろぴくね。」
　「先生なんですか。」なんなの、この変な教師は。先が思いやられるなと思った。
　「まぁ～先生と言っても、君たちと同じ新米教師で、タマタマ親父の友達の校長先生から頼まれちゃってね。うふふ。」
　「はぁ。」
　「だから、一生懸命頑張るから、よろぴくね。」と言って、ピースサインをした。
　熱血なのか。変なのかよく分からない先生にあっけにとられていると、おとなしい男の子が教室に入って来た。
　綾小路先生が、「君は、吉田君だね。」と元気に話しかけた。
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