ボーという音と共に船が旋回して走り出した。私は三月の休みを使い、船に一人で乗って旅をしていた。鞄一つ持って気楽な旅だった。周りを見渡すと乗客はまばらで所々にいた。私は、海を見るために客室から出た。
波の音が心地よくて静かな海が広がっている。私の住んでいる町がだんだん遠く離れて行って、小さくて模型みたいに見えた。古里というものは、一度出るとありがたい気持が湧いてくる。
船の近くをカモメの群れが . . . 本文を読む
家の縁側から庭を見ていると、一匹の猫が石の上で気持ち良さそうに日向ぼっこをしていた。私は猫につられて、大きな欠伸をした。
春はあけぼのという事で、いてもたってもいられなくて、無性に散歩に行きたくなった。
「おばあさん。散歩でも行きましょうか?」
「そうですね。いいお天気ですものね。」
「それでは、いきますか。」私は早速、杖を持って、帽子をかぶって、玄関を出た。隣には、着物を着たおばあさん . . . 本文を読む
私は、あの人が大好きだった。背が高くて、目が澄んでいて、お笑い芸人に少し似ていた。あの人の側にいるだけで、楽しくて胸がときめいた。
あの人は7年付き合っていた彼女がいた。私とあるきっかけで出会い、彼女と別れて、付き合うと言ってくれた。
私はうれしくてあの人の前で子供みたいに泣きじゃくった。
あの人は困ったような顔をして頭を撫でてくれた。
私は、勇気を出してあの人の胸の中に飛び込んだ。温か . . . 本文を読む
ポカポカと春の風が心地よい。近所の桜の木の下で花見の宴会があっていた。
カラオケのスピーカーから酔っ払いの下手な歌が聞こえてきた。
今日はいい天気で、花見には最高だった。
僕は布団を干しながら、下手な演歌の歌を聞いていると、なんだか眠くなりウトウトとしていた。太陽の光が眠気を誘ったのだ。隣の猫も丸くなって寝ていた。
「私サトル君のお嫁さんになる。」
「僕もカナちゃんのお婿さんになる。」 . . . 本文を読む
さっきまで降っていた冷たい雨もやんで、もう春の暖かい風が吹きはじめている。春の陽気に誘われるように君が目の前に現れた。
君の笑顔は無邪気でかわいくて、窓から差し込む光で輝いて見えた。
二階の病院の一室の窓から見える君の笑顔が好きだった。私の顔を見るといつも笑って大きく手を振っていた。
君は誰だろうと思って、毎朝病院の前を通っていた。
君は幼い様で色っぽい顔つきをしていた。歳は高校生くらい . . . 本文を読む
昨日徹夜で好きな人にあげるチョコレートを一生懸命手作りで作った。私のオリジナルチョコレートだ。
体中チョコレートだらけになった
体も甘くなったので、私の事もトオルが食べてくれたりなんかしちゃってとか考えていたら顔がにやけてきた。
トオルは、私のチョコもらってくれるだろうか。
トオルとは幼なじみで、サッカー部のキャプテンだ。
頭もよく、足も速く、顔も超かっこいい。女の子にもモテモテだ。私 . . . 本文を読む
私が高校の非常勤講師を辞めて、もう5年の月日が経った。人の記憶というものはなんてちっぽけなものだろう。
好きなNの事なんて完全に忘れていた。私の歳も30歳になった。今は、サラリーマンをしている。
相変わらず彼女という人はいないけど、毎日生きる幸せを噛み締めて生きている。仕事があるだけでいい。
なぜ最近になって非常勤講師をしていた頃を思い出したかというと、営業で学校に訪問をした時、教室の黒板 . . . 本文を読む
テーブルを囲んで5.6人男女向き合うように座っていた。私は今お見合いパーティーに来ている。今年30歳で小さな工場で働く私には出会いが少なかった。 私のタイプは、背が高くてモデルみたいな女の人が好きなのだけれども、選んでいる場合ではなかった。
現実を見ようと思い、勢いで出会いを探す為に、お見合いパーティーに申し込んだのだ。
経費は3000円でフリードリンク付きで、お互い気に入らなかったらすぐ . . . 本文を読む