生温かい南風が通り過ぎた。体育館の側にある咲いている桜が所々揺れている。
今日は卒業式。体育館に集まり、整列をしている卒業生90名、贈りだす在校生73名。
バーコードというあだ名を誰かがつけていた禿げた校長先生の挨拶が終わり、大ちゃんの父親がPTA会長の挨拶をしている。
後ろで膝かっくんをしてきたヨウジが話しかけてきた。
「おい。アヤが見てるぜ。」
「嘘つくなよ。」
「今日卒業式で、 . . . 本文を読む
車の窓を開けると、暖かい風が横を通り過ぎていく。君に会うのは今日で3回目。待ち合わせはいつも彼女の家の前だ。私が車で迎えに行くのが日課になっていた。
私が、車の中から手を振ると彼女も手を振っている。今日は、チェックの丸い帽子を被り、白の長袖のシャツに紺色の長めのスカートを履いている。肩からショルダーバッグをかけていた。
「待った?」
「そんなに待ってないよ。」
「車に乗りなよ。」
「は . . . 本文を読む
「桜の花もほころび喜びの春。私たちは、今旅立ちます。」答辞を読んでいる生徒会会長。それを聞きながら、噛み締めて涙を流す卒業生。ハンカチで顔を覆う女子達。
体育館の外は、晴天で桜が小さく微笑んでいた。
まるで私達の姿を喜んでいるようだ。
担任の先生初め、来賓の人達が温かく見守っている。
海援隊の「贈る言葉」のイントロが流れ、私たちは体育館を後にした。
体育館の前では、卒業生が慌しく群がっ . . . 本文を読む
老人ホームの小さな窓から見える紅色の梅の花にめじろが二羽とまっている。
夫婦だろうか。それとも恋人同士で、喧嘩でもしているのだろうか。なにやら首を傾げて会話をしている。
片方のめじろがもう片方に口ばしでつついているが、それに答えられなくて逃げ回る女めじろ。
人間で言うなら、ふられてでもいるのだろうか。
それでもめげずにチョッカイを出している。私もそんな頃があったのだ。
梅の花を見るたび . . . 本文を読む
春一番の強い風が吹いている。この風が吹いたら、春になるのだろうか。
それにしても、温かくなったり、寒くなったりしている。こんな感じだと春という季節は訪れないのかと思う。
私はファミレスで彼女と話しをしていた。浮気がばれて、別れようという話になっていた。
一人暮らしの部屋に女を呼んだのが間違いだった。
彼女がベッドの上やトイレや台所など、くまなく探していて、やっと出たのが化粧水のビンと使い . . . 本文を読む
家の縁側から庭を見ていると、一匹の猫が石の上で気持ち良さそうに日向ぼっこをしていた。私は猫につられて、大きな欠伸をした。
春はあけぼのという事で、いてもたってもいられなくて、無性に散歩に行きたくなった。
「おばあさん。散歩でも行きましょうか?」
「そうですね。いいお天気ですものね。」
「それでは、いきますか。」私は早速、杖を持って、帽子をかぶって、玄関を出た。隣には、着物を着たおばあさん . . . 本文を読む