居酒屋で友人たちとちょっとした集まりがあり、話していると、カウンターにいた先輩が「ちょっと店が忙しいので、駅に妹を迎えに行ってくれないか?」とバイクの鍵を渡した。
集団はあまり好きではない。その事を察してくれたのか、先輩が気を利かせてくれたのかもしれなかった。ドアを開けると、葦簀の間から南風が吹き込んできた。
外に止めてあったバイクに乗り込む。二人乗りでヘルメットも2個ついていた。
妹は確 . . . 本文を読む
放課後の学校は、生徒がいるにもかかわらず、なぜか薄っすらとしている。
夕暮れ時で、野球部の「さーこーい。」という掛け声が時折、運動場から聞こえてくる。
もうすぐ文化祭で、居残りで準備をしていた。出し物はよく分からないばぁさんが毒リンゴを持って、狼を退治するような喜劇のようだった。段ボールで、木を作ったり、葉っぱを形どったものがざっくばらんに散らばっていた。
隣の男子は、段ボールを刀に見立て . . . 本文を読む
営業の仕事の帰り、駅のホームで、ネクタイを緩め、電車を待っていると、一匹の蛍がやってきた。
近くにいた坊主の少年が、「あっ蛍だ!」と叫んで、手で捕まえようとしている。白線を飛び越えようとしたら、隣にいた母親が「危ないからやめとき。」と少年の腕を叩いた。
周りはすでに暗くなり、長椅子の所に止まり、蛍の光がチカッチカッと輝いている。
私は、一時蛍の光を追いかけるように見ていた。
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小学生の頃。真冬でも半袖、半ズボンで、頭は坊ちゃん刈りで、常に鼻水を垂らしている吉田くんがいた。
強烈なイメージとしては、男女関係なくカンチョウをしていた。両手をピストルのような形でくみ、女の子がスカートでもズボンでもお構いなしにカンチョウをして、「ウホッウホッ。」と笑って喜んでいた。
顔もどことなくゴリラに近いような顔をしていた。
ある時、渡り廊下で、サッカー部のクニオが窓越しに女の子と . . . 本文を読む
理沙は朝からベランダに干してある洗濯物を取り込んでいる。
隆はその姿を見てテレビをつけた。プロ野球の阪神対巨人があっていて、巨人が一点リードしている。
「隆、テレビばかり見てないでさ。自分の洗濯物くらい自分でたたんでよ。」理沙が不機嫌に隆の隣に座った。
「それって女の仕事だろ。俺仕事で疲れてるんだから。」隆がゴロッと寝そべった。
「女の仕事って決まってないわよ。今は、昔と違うんだからね。 . . . 本文を読む
寒い中、悴む手をこすり合わせて橋の上で女の子が待っていた。フサフサの帽子をかぶって首にはトランプの様な柄のマフラーをしていた。手には綺麗に包装してあるチョコレートを持っていた。
誰にあげるのだろうと横を通ると女の子が笑顔で近づいてきた。
「すみません。」
「えっ。」まさか私にだとは思ってもいなかったので驚いた。
「今日バレンタインデーなのでもらってくれませんか。」
「別にいいですけど、 . . . 本文を読む
学校が夏休みに入って何日か経ったある日、祖父と祖母と一緒に親戚の家に行く事になった。
初盆だからという事で、子供の私にはよく分からなかった。
電車を降りるとのどかな田園風景があり、草むらの香りが漂っていた。人もいなくて駅員さんがぽつんと一人駅の所に立っていた。
祖父が険しい顔をして「行くぞ。」と声をかけた。
久しぶりに兄を訪ねて行くので気合いが入っているみたいだった。私は、祖母の手を握り . . . 本文を読む
「あち~。」サトミは、コンビニの前で地べたに座り込んだ。茶色の長い髪がパーマでボサボサしていた。遠くから見たら、サイババの様な感じだった。
今日は登校日という事で早く帰れたので、コンビニでお気に入りの雑誌を立ち読みして、アイスクリームを買った。チェックの制服のミニスカートからはピンクのパンツがチラチラと見えていた。
サトミはお構いなしに買ったばかりのアイスを袋から取り出すとペロペロと舐めだし . . . 本文を読む
放課後。高校の運動場が見える山の上に来ていた。野球部の声がここまで届いている。僕達は、野球部の練習風景を見ていた。野球部の声が聞こえなくなると、急にせつなくなり、友達に話しを切り出した。
「好きな子がいたんだけど。」僕が静かに言って、黙っていると、友達が身を乗り出して聞いてきた。
「それでどうなったんだ?」僕達は少し黙った。野球の金属バッドのカキーンという音が響いていた。
その後、僕が「ふ . . . 本文を読む
告白していたヨリコに返事をもらう為に町外れにあるバス停を目指していた。ヨリコの家の近所のバス停は、最後のバス停だから乗っていたら分かると言われていた。バス停の椅子に座って待っているからと家の電話で待ち合わせをしていたのだ。
何日の何時に着くバスで必ず行くから待っててと念を押して言っておいた。
乗ること約一時間、随分遠くまで来たような気がする。
ヨリコは、中学の途中で転校して行った。転校する . . . 本文を読む
入学式が間もなく始まろうとしている。体育館に集まっている全校生徒は、何人くらいいるだろうかとボンヤリと考えていた。
僕は急に思い出して、Aクラスのエリコを探していた。いつも髪を一つに結んでいて、あごが少し尖っていて、目がクリッとしていた。
同じ学年で入学式も一緒だった。顔を一目見て、かわいい子だなとこの時を心待ちしていた。
エリコと逢う時は、全校生徒が集まる時しかなかった。この入学式を逃し . . . 本文を読む
お洒落の雰囲気の店内は、クリスマスが近づいている事もありにぎやかだった。
店内の音楽は、山下達郎のクリスマスイブが流れていた。
彼女と久しぶりのデートで、家の近くの喫茶店に来ていた。
もうすぐクリスマスという事で、サンタクロースの話しをしていた。
ふと窓の外を見ると雪がスローモーションのように降っていた。隣の席の子供が窓越しに見て「わーきれい」と叫んでいた。
私も隣の子供につられて雪 . . . 本文を読む
夏が来るたびに思い出す。照りつける太陽。蝉の鳴き声。空いっぱいに広がる入道雲。プール開き。
今日は金曜日。中村先生が来る日。すごく楽しみで、化粧をして、めいいっぱいお洒落に気を使った。中村先生は、塾の先生で、将来本当の教師を目指すために金曜日だけ教えに来ている19歳の先生。
私は、中村先生が大好きで、先生の授業の時、ドキドキして胸が熱くなった。先生からあてられるとキュンとしてしまう。目と目が . . . 本文を読む
髪を黄色に染めて、耳にはピアスが三個両サイドについている。制服のズボンはずり下がり、上のブレザーのシャツはだらんとだらしなく出している。ネクタイもちょこっと巻いているだけだ。カズは高校一年生。
私とは相性が合わない。話しかけようとすると「だりー」「きちー」「ねみー」の一点張りだ。新任教師だから舐められているのかもしれない。この前も掃除をしないから叱った。ふて腐れて「だりー」といいながらしていた . . . 本文を読む
携帯を首からだらしなく下げて、ミニスカートを履き、ルーズソックスがブカブカとずれ落ちている。公園の広場でいつもの様にトオルと会う約束をしていた。
「超だりー。まだ来ねぇのかよ」マリは退屈そうに空を見上げて呟いた。トオルとは、友達の紹介で知り合った。前はカラオケ屋で働いていたが、店長が変わって、よく怒られるようになってからは辞めて、今は飲み屋で働いている。
小心者な所がある。歳は、七つ離れてい . . . 本文を読む