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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

18.初日の出

2010年01月01日 | 冬の物語
 ピィーと北風が吹きぬけた。
 初日の出を見に行く為に、車に乗り込み近くの山を目指す。
 息子が目をこすりながら、欠伸をしていた。今日は彼女と行くはずだった初詣がキャンセルになり、仕方なく私に付き合わされたということのようだ。
 私はと言うと、今年は会社がつぶれて職業訓練校に行く事になった。妻は愛想つかして、家を出て行った。
 40年家のローンの事や息子の大学費用などの事を考えると納得が行く。私には、お金以外の魅力がなかったという事だった。
 午前5時だというのに車が多い。私達と同じで、初日の出を見に行く人が多いのだろう。
 このままだと初日の出には間に合わないかもしれない。
 息子が寒いと呟いて、ヒーターを強くして、ついでにラジオをつけた。
 ラジオのDJが新年の挨拶を一通り言った後、くだらないジョークを言った。
 息子は、少しだけ笑っている。
 「車中々進まないな。」息子と黙ったままだと辛いので話しかけた。
 「正月だから仕方ないよ。」そっけなく答える。
 「そうか。」ラジオでは、お気楽なDJが、今日はいい天気になると言い、今流行のポップスを流した。息子は、私との会話が嫌なのか音楽に合わせ口ずさんだ。
 一時すると、車が順調に進み、何とか明るくなる前に山の頂上に着いた。
 駐車場に入り、車を降りる。
 山の上では、空気の美味しさが違う様に感じる。息子は、もう一度寒いと言い、背伸びをした。
 もうすぐ夜が明ける。坂本龍馬が日の出を見て、歴史に残る台詞を呟いたと聞いた事があるが、そんな気持ちも分かる様な気がしていた。
 薄暗い夜から、明るい日が差し込んできた。
 「父さん。今年も明けるね。」
 「あぁ。昨年は、嫌な事ばかりあったからな。今年は、いい年にしような。」真っ赤な太陽がゆっくりと砂時計の針のように昇っている。
 この太陽が、今年も一秒ずつ刻んでいくのだろう。昨年の事は、ここに置いて、新しい希望の光だけを見る事にしよう。
 「今年もよろしくお願いします。」息子が手を合わせ、彼女の名前を呟いている姿に少しだけ笑った。

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