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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

17.月

2008年05月28日 | 秋の物語
 タカシは、学校で受けたテストの答案が悪くて家に帰りづらかった。
 そろそろ辺りも薄暗くなって来ている。一歩一歩と足に鎖がついているみたいに重かった。下を向いて歩いていると山道に入り込んだ。
 そういえばこの道は通ったことがない。昔の言い伝えで入ってはならないと聞いた事があった。
 今夜は綺麗な月が出て、獣道を照らし影を作っている。タカシは大きくなっている自分の影を踏みながらもっと奥の道に入っていった。
 周りは誰もいない。梟や鳥のざわつく変な鳴き声が聞こえてくる。
 振り返るが、帰り道もわからなくなった。
 段々とタカシに不安の色が出てきた。
 ひょっとしたらこのまま帰れなくなるかもしれない。
 ふと、目の前を一匹のウサギが通った。
 ウサギはこっちを見てぴょんぴょんと逃げるように去っていく。
 この兎の後を追いかけていけば家へ帰れるかもしれないと思い、タカシはその兎の後をついて行くことにした。
 一時行くと、兎が立ち止まり、赤い目が月を見上げた。
 タカシも一緒に見上げると、月の光の間から真っ赤な天狗が風と共にフワッと飛んできた。
 タカシの目の前に現れると、鋭く睨んだ。
 「お主、ここは人間が来る所ではないぞ。」
 「ごめんなさい。テストが悪くて、道に迷ったんです。」
 「そうか。それでは仕方ないな。今日は、祭りだから遊んでゆくがよい。わははは。」と天狗の笑い声が響いた。
 それを合図に森の中から、大勢の天狗の仲間がやって来た。扇を持つ天狗や太鼓を持つ天狗がいて、円を描きながら踊っていた。
 中には、自分と同じような天狗の子供がいて逆立ちをしたり、クルクルと回って楽しそうにしていた。
 回っている天狗の子供がタカシに「一緒に踊ろう。」と言った。
 タカシも仕方なく天狗の輪の中に入り、太鼓の音楽に合わせて一緒に踊る。
 「よ~と。」手拍子に合わせ、女の子らしき天狗と手をつなぎ、リズムに合わせて踊った。
 一時の間、踊っていると、遠くの方から、人間の声がした。
 「たかし。たかし。」と叫んでいる。
 その声を聞くと、天狗の群れは大きな月に向かってみんな逃げて行くように去っていった。
 「お前どこにいたんだ。探したんだぞ。」父の声を聞いたら涙が出た。
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