中野一男は、天然パーマの髪をスプレーの白で塗り潰し、100円ショップで買ったサンタセットの服を着て、帽子を被り、白髭をつけ、眉毛も白のテープを貼って、鏡を見た。
「オッほっほー。私はサンタのおじさんだよ。」ポーズをすると同じように鏡に写り、自嘲気味に笑った。
今日は、イブなので、サンタの格好をして、彼女の家にプレゼントを持っていく事にしていた。真夜中12時に彼女の家の窓から忍び込み、枕元にプレゼントを置くという事を考えていた。
電気屋の仕事はスムーズに終える事が出来た。社長からもニコやかに「早く上がっていいよ。」と言われた。この前、温風扇風機を探したので、機嫌がよかったのかもしれない。
彼女の家まで、歩いて40分。この前の事があるから、念には念を入れ、11時に家を出た。
サンタのズボンが大きくて、ずり下がっている。茶色の紐を取り出して、腰とズボンを結んだ。プレゼントを白色の袋に入れて、肩から下げ、彼女の家まで歩いていく。
歩き方もゆっくりとした方がサンタっぽいかなと思いながら、蟹股で歩いていく。
一時歩いて行くと、全面通行止めの看板が出ていて、交通誘導員が赤と緑の棒を振っていた。誘導員も自分と同じようにサンタの格好をして、白髭をつけている。自分とどっちがサンタに似ているかなと思った。
中野が看板の横の道を通ろうとすると、「お兄さんここは通ったらダメなんだよね。」としかめた顔で言われた。
「私は、サンタクロースだから通ってもいいはずでは?」
「サンタでもダメダメ。今工事中で危ないから。」誘導員が真顔で答えた。
「そうなんですか。分かりました。」遠回りになるが仕方ない。来た道を少し戻り、天使とトナカイと小人のサンタがエントツに登っているイルミネーションが綺麗な家の前を通ると、横の道から、とち狂った犬が勢いよく吠えて追いかけてきた。
「やばい。」と避けようとしたが、犬が袋を噛み、次に中野の尻をガブッと噛んだ。
「いってー。」尻を噛んで一時離さなかった。
中野も負けじと袋で、犬の頭を叩いた。犬も「ワゥワゥ。」と言って、戦闘モードに入っている。
中野と犬が倒れこんだ。今度は、平手で犬の鼻を殴ると、指を3本噛まれた。指から血が流れた。俺はこのまま死ぬかも。もう一度君の笑顔が見たかったなと思った時、倒れた手の所に石が落ちていて、その石で犬の顔面を殴った。
犬は、「キャインキャイン。」と鳴いて、走って茂みに逃げた。
手と指と尻が痛くて、ヒリヒリとする。きっと、尻には犬の歯形がついている事だろう。指は腫れて、血がにじんでいた。
狂犬病になったらどうするんだ。まったく、どうしていつも彼女に会いにいくとこうなるんだろうと呟くと、冷たい小雨が降り出して来た。寒さで痛さが倍増して体全体に響いた。
「くそー。何が何でも彼女の家に行ってやる。」時間はすでに11時30分だった。痛さが響かないように、尻のあたりを擦り、ゆっくり歩くと、古びた一軒家があり、窓の所から人影が見えた。
その後に「ドロボーよ。誰か捕まえてー。」と家の中から声が聞こえてきた。
「えっ。」中野の横を泥棒が通り過ぎる。なんで泥棒がいるんだ。今日もついてないかもしれない。
一軒家から、パジャマ姿の太ったおばさんが出てきて、一緒に追いかけた。
泥棒は、すごいスピードで走って行く。
走っていると、おばさんが息を切らして、目が合い、「絶対捕まえて。」と言った。なんで俺が捕まえなけりゃならないんだろう。こういう事ならサンタの格好をするんじゃなかったと思った。
追いかけて行くと、泥棒が教会に入った。
教会では、ミサの音楽が流れてて、何人か祈っている人達がいた。泥棒が入っていくと、パニックになり、首を絞めるように神父を人質にとった。
「やめなさい。ここは、教会ですよ。」神父が、丁寧な口調で言う。
「知るか。俺が助けて欲しい時は誰も助けてくれなかった。」
「あなたにも神のご加護を信じましょう。アーメン。」神父が祈る。泥棒が神父を羽交い絞めにしている。中野とおばさんも「アーメン。」と祈った。
遠くの方からサイレン音が近づいてきた。近所の人が警察官を呼んだのだろう。外を見ると、教会の周りにパトカーが10台くらい取り囲んでいる。
警察官も赤い帽子を被り、みんな白髭をつけていた。
そんな馬鹿な話があるわけないだろうと思うと、トナカイの格好をした警官が「外は包囲した。出てきなさい。」とスピーカーでお決まりの文句を言った。
「何がサンタだ。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。」十字架がある所に上り、神父を突き飛ばした。
その瞬間、「今だー。突撃―。」と言って、サンタの警官隊が一斉に突入して泥棒を捕まえた。
おばさんも「よかったわ。これで安心したわ。」とホッと肩を撫でおろした。
「お疲れ様でした。」と前にいた警官が敬礼をした。中野も警察官の一人と間違われているのかもしれない。
サンタが教会の中で、ウジャウジャいるから誰が誰だとは分からない。
その時、十字架の上に飾ってある時計が12時を告げた。
「もう、こんな時間だ。プレゼント届けないと。」隣にいた警察官が「私が送って行きましょうか。」と言った。
「そうしてもらうと助かる。」パトカーに乗り、急いで彼女の家に向かった。
彼女の家の前へと着く。パトカーのサイレン音で、彼女が家から出てきた。
「何事?何でサンタ?てか何でパトカー?」彼女が不思議がっていた。
「ただ、君にプレゼントを渡したかっただけなんだ。オッほっほー。」昨日サンタの練習をした通りに袋の中に手を入れた。袋に穴が空いて、プレゼントが無くなっていた。犬から噛まれて落としたのだろう。
「プレゼント無くなったみたい。」
「もう、しょうがないんだから。サンタさん家に寄って行く?」
「もちろんだよ。」家に入るのを見届けた警察官が敬礼をして去って行った後、さっきの犬がトボトボと歩いてきて、口にくわえたプレゼントを玄関の前に置いた。
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Flower 『恋人がサンタクロース (Short Version)』
「オッほっほー。私はサンタのおじさんだよ。」ポーズをすると同じように鏡に写り、自嘲気味に笑った。
今日は、イブなので、サンタの格好をして、彼女の家にプレゼントを持っていく事にしていた。真夜中12時に彼女の家の窓から忍び込み、枕元にプレゼントを置くという事を考えていた。
電気屋の仕事はスムーズに終える事が出来た。社長からもニコやかに「早く上がっていいよ。」と言われた。この前、温風扇風機を探したので、機嫌がよかったのかもしれない。
彼女の家まで、歩いて40分。この前の事があるから、念には念を入れ、11時に家を出た。
サンタのズボンが大きくて、ずり下がっている。茶色の紐を取り出して、腰とズボンを結んだ。プレゼントを白色の袋に入れて、肩から下げ、彼女の家まで歩いていく。
歩き方もゆっくりとした方がサンタっぽいかなと思いながら、蟹股で歩いていく。
一時歩いて行くと、全面通行止めの看板が出ていて、交通誘導員が赤と緑の棒を振っていた。誘導員も自分と同じようにサンタの格好をして、白髭をつけている。自分とどっちがサンタに似ているかなと思った。
中野が看板の横の道を通ろうとすると、「お兄さんここは通ったらダメなんだよね。」としかめた顔で言われた。
「私は、サンタクロースだから通ってもいいはずでは?」
「サンタでもダメダメ。今工事中で危ないから。」誘導員が真顔で答えた。
「そうなんですか。分かりました。」遠回りになるが仕方ない。来た道を少し戻り、天使とトナカイと小人のサンタがエントツに登っているイルミネーションが綺麗な家の前を通ると、横の道から、とち狂った犬が勢いよく吠えて追いかけてきた。
「やばい。」と避けようとしたが、犬が袋を噛み、次に中野の尻をガブッと噛んだ。
「いってー。」尻を噛んで一時離さなかった。
中野も負けじと袋で、犬の頭を叩いた。犬も「ワゥワゥ。」と言って、戦闘モードに入っている。
中野と犬が倒れこんだ。今度は、平手で犬の鼻を殴ると、指を3本噛まれた。指から血が流れた。俺はこのまま死ぬかも。もう一度君の笑顔が見たかったなと思った時、倒れた手の所に石が落ちていて、その石で犬の顔面を殴った。
犬は、「キャインキャイン。」と鳴いて、走って茂みに逃げた。
手と指と尻が痛くて、ヒリヒリとする。きっと、尻には犬の歯形がついている事だろう。指は腫れて、血がにじんでいた。
狂犬病になったらどうするんだ。まったく、どうしていつも彼女に会いにいくとこうなるんだろうと呟くと、冷たい小雨が降り出して来た。寒さで痛さが倍増して体全体に響いた。
「くそー。何が何でも彼女の家に行ってやる。」時間はすでに11時30分だった。痛さが響かないように、尻のあたりを擦り、ゆっくり歩くと、古びた一軒家があり、窓の所から人影が見えた。
その後に「ドロボーよ。誰か捕まえてー。」と家の中から声が聞こえてきた。
「えっ。」中野の横を泥棒が通り過ぎる。なんで泥棒がいるんだ。今日もついてないかもしれない。
一軒家から、パジャマ姿の太ったおばさんが出てきて、一緒に追いかけた。
泥棒は、すごいスピードで走って行く。
走っていると、おばさんが息を切らして、目が合い、「絶対捕まえて。」と言った。なんで俺が捕まえなけりゃならないんだろう。こういう事ならサンタの格好をするんじゃなかったと思った。
追いかけて行くと、泥棒が教会に入った。
教会では、ミサの音楽が流れてて、何人か祈っている人達がいた。泥棒が入っていくと、パニックになり、首を絞めるように神父を人質にとった。
「やめなさい。ここは、教会ですよ。」神父が、丁寧な口調で言う。
「知るか。俺が助けて欲しい時は誰も助けてくれなかった。」
「あなたにも神のご加護を信じましょう。アーメン。」神父が祈る。泥棒が神父を羽交い絞めにしている。中野とおばさんも「アーメン。」と祈った。
遠くの方からサイレン音が近づいてきた。近所の人が警察官を呼んだのだろう。外を見ると、教会の周りにパトカーが10台くらい取り囲んでいる。
警察官も赤い帽子を被り、みんな白髭をつけていた。
そんな馬鹿な話があるわけないだろうと思うと、トナカイの格好をした警官が「外は包囲した。出てきなさい。」とスピーカーでお決まりの文句を言った。
「何がサンタだ。どいつもこいつも馬鹿にしやがって。」十字架がある所に上り、神父を突き飛ばした。
その瞬間、「今だー。突撃―。」と言って、サンタの警官隊が一斉に突入して泥棒を捕まえた。
おばさんも「よかったわ。これで安心したわ。」とホッと肩を撫でおろした。
「お疲れ様でした。」と前にいた警官が敬礼をした。中野も警察官の一人と間違われているのかもしれない。
サンタが教会の中で、ウジャウジャいるから誰が誰だとは分からない。
その時、十字架の上に飾ってある時計が12時を告げた。
「もう、こんな時間だ。プレゼント届けないと。」隣にいた警察官が「私が送って行きましょうか。」と言った。
「そうしてもらうと助かる。」パトカーに乗り、急いで彼女の家に向かった。
彼女の家の前へと着く。パトカーのサイレン音で、彼女が家から出てきた。
「何事?何でサンタ?てか何でパトカー?」彼女が不思議がっていた。
「ただ、君にプレゼントを渡したかっただけなんだ。オッほっほー。」昨日サンタの練習をした通りに袋の中に手を入れた。袋に穴が空いて、プレゼントが無くなっていた。犬から噛まれて落としたのだろう。
「プレゼント無くなったみたい。」
「もう、しょうがないんだから。サンタさん家に寄って行く?」
「もちろんだよ。」家に入るのを見届けた警察官が敬礼をして去って行った後、さっきの犬がトボトボと歩いてきて、口にくわえたプレゼントを玄関の前に置いた。
Flower 『恋人がサンタクロース (Short Version)』
またまた登場 中野くん~最高だい~
無事にたどり着いて良かったね~オチもいい~
私は永遠にあなたのファンだい
早く、彼女にプレゼント持っていくようになりたいなぁという願望を書いてみました。
たぶん、いつも物語待っている人がいると思って、喜んでもらえたら、とても嬉しいですね。
中野くん出したくなかったですが、本当に考えまくりましたよ。
いつもパトカーや警察が出てきますね。
自分でも可笑しい話しです。(笑)
落ちがついてよかったです。
ずっとファンで読んでやってくださいね。