７．Ｘ’ｍａｓ

　

　１２月になり、慌ただしく車も通り過ぎ、人々が忙しそうに歩いている。一年を振り返り、何かを忘れてるかのような気持ちになり、夜になると街のイルミネーションが煌びやかに点灯しはじめる頃、二人は寄り添うようにティファニーの店内を見ていた。
　「わーこのネックレスかわいい。」彼女が様々な品物から一つを指差して、子供の様に嬉しそうにはしゃいだ。
　その声を聞いた女の店員が、待ってましたとばかりに駆け寄ってきて、ガラスボックスを開け「このネックレスは今年一番のお薦めですよ。」と言って取り出した。
　彼女は、手にとって見て、「はめてもいいですか？」と聞いた。店員がネックレスのホックを外し、彼女の首元に優しく丁寧にかけた。
　グレーのトータルネックに茶色のジャケットを着ている彼女の首元にキラキラと光るティファニーのネックレス、とても良く似合っていた。
　「うーん。いい感じだけど。」彼女が写っている鏡を見て悩んでいる。
　私は、横目で値段が書かれてあるプレートを見ていた。イチ、ジュウ、マン。１２万円だった。生唾を飲み込み、そんな高いやつ選ぶんじゃないよと心の中で思った。彼女がもうすでに買った様な顔をして喜んでいる。
　「どうかな。」私の方を彼女が上目遣いで見てきた。この目をする時は、かなり欲しい時にするやつだ。だけど、そんなお金はない。
　「他のも見てみたらどうかな。」と提案した。
　「そうだよね。高いし、もっと安いのでもいいか。」と明るく振る舞っていたが、残念そうな感じが受け取れた。それから、一時店内を見ていたが、最初のが一番いいらしく、また後日来ることになった。
　「なんか良いのなかったね。」店を出た後、彼女が嘆いた。
　「最初のがよかったけど、高かったからな。」と私が返した。
　「ま、しょーがないよね。」
　「しょーがないってどういうこと。」
　「クリスマスプレゼント何がいいっていうから、店に入ったんだよね。」彼女の顔が見る見るしかめっ面になっていくのが分かる。機嫌が悪くなると薄っすらとオデコの辺りに血管が浮き出てくるのだ。
　「俺だって、買ってやりたいって気持ちあるって。」声が大きくなり、ティファニーの前の大きなツリーの前で、いちゃいちゃして座っているカップルがこっちを見ていた。
　「私たちって、このままじゃ駄目だと思う。」しんみりと彼女が言った。それを聞いて、「分かったよ。俺たち距離を置こう。」と言った。
　アーケード通りから、クリスマスソングが耳に入ってくると、彼女が涙をこらえる様に走って帰った。
　何でクリスマス前にこんな事でケンカしなきゃならないのか、泣きたい気持ちはこっちの方だった。
　それから数日が過ぎても、彼女と連絡をしなかった。私は、道路工事のアルバイトを増やし、１２万円貯める事が出来た。日雇いのバイトは金になるが体が辛い。クシャクシャになった一万円札１２枚持って、ティファニーの前に来た。
　ケンカはしたものの、やっぱり彼女の事が大好きだった。それに、世界中で、あれほどティファニーのネックレスが似合う女の人はいないと思う。
　店内に入ると、この前と同じ店員が近づいてきて、この前のネックレスを取り出した。
　私は、十二万円ズボンのポケットの中で、握り締め、そのまま店員にお金を渡すと、手が震えていた。
　店員は何も言わず、クリスマス用の包装紙にすばやく包み込み、「ありがとうございました。」と丁寧な口調で言った。
　店を出ると、目の前の大きなツリーが北風で揺れて、電灯がチカチカと身を震わせていた。ツリーの中の天使の形をした飾りを見て、彼女の喜ぶ姿を想像していた。
　携帯で公園に彼女を呼び出してプレゼントを渡すことにした。
　彼女が、気まずそうな顔をして、「何の用？」と言った。
　「はい。これ。」ティファニーの紙袋だと分かると、彼女が信じられないと言うような顔になり、飛び上がった。
　「これ、どうしたの。」
　「あれから俺、バイト増やして頑張ったんだよね。」
　「そうだったんだ。とっても嬉しい。」彼女が涙を流して私の胸に飛び込んだ。
　一時抱きしめあった後、
　「クリスマス何も予定考えてないけど、これからどうしよっか。」と彼女が言った。
　「別に何もなくていいよ。君さえいれば。」
　「そっか。」私のジャンバーに彼女が手を入れて、ギュ－と握りしめた。
　サンタクロースやトナカイのイルミネーションが点灯してある家を肩を並べて歩いて帰った。
　
　

　
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