それから3年後。
準は、ビシッとしたスーツに身を包んで、よりこの成人式に出席していた。
三年前の約束を果たすためだ。
文化センターの館内は広く、千人くらいの成人がこの日を迎えていた。市の偉い人が何人か挨拶があった後、よりこが成人代表でスピーチをしている。
振袖を着ているよりこは、読者モデルのように綺麗だった。
挨拶が終わると、市長が礼をして、よりこがステージから私たちの方を見て、微笑んだ。
細身のよりこの惚けたような仕草は、高校生の頃と変わっていなかった。よりこが笑うと式典がもっと華やかになるような感じがした。
昔からこの笑顔がたまらなく愛しかった。
式典が終わり、よりこが同級生達と話しをしている。その中でも一際目立っていた。
準が近寄って話しかけようとすると、先に茶髪の男がよりこの隣にいて、楽し気に話しをしていた。
それを見て、時間が経ちすぎていた事を悔やんでいた。
準がボケッとしていると、振袖を着ているよりこが目の前に佇んでいた。
「先生。来てくれたんだ。私、代表で挨拶したんだよ。」
「あぁ。隅っこで見てたよ。よりこ綺麗になったな。」
「ありがとう。私やっと大人になった。」よりこは、うっすらと目に涙をためていた。隣にいる茶髪で白いスーツを着ている男がハンカチを渡した。
準は、やるせない目でその光景を見ていた。
「先生。私ね。とっても今の彼氏が大好きなんだ。だから。」
「それ以上言わなくても分かっているよ。彼氏を大事にしろよ。」
「私、先生には感謝してるんだ。本当にありがとう。」隣にいた彼氏が肩を抱いた。彼氏が「よりこ泣くなよ。」と小さな声で呟いた。
よりこが泣くと、華やかな式典が葬式のように暗くなっていくようだった。
準は明るい笑顔で手をふって二人を見送った。
館内の桜はまだ咲いてはいない。いつ頃に満開になるのだろうかとぼんやりと桜の木を見ていた。
小さな蕾を見ていたら、「ガンバレ。」と応援していた。なんだかせつなさが込み上げてきた。
二人はこれからどう過ごすのだろう。
私はこれからどうやって過ごせばいいのだろう。
約束なんてしなければよかった。
準は家に帰り、少し仮眠をとって、BARの看板の電気を点けた。
どんなに辛い事があっても店は開けなければならない。準は、辛い事を心の奥底にしまって、今日も気持ちを込めて挨拶をする。
「いらっしゃいませ。」
そんな春が終わると、生暖かい風が吹いて、雨が降ったり止んだり、また降ったりするジメジメとした梅雨になるのだった。
BARの街灯が雨で濡れ、さらにぼんやりとしている。
こんな日にくる客は、おかしな酔っ払いか。常連の客しか来ない。
「いらっしゃいませ。」BARの開くチリンチリンという音が響いた。
「外、雨で嫌になるわね。」透明の傘をたたんでカウンターの席に着いた。
「本当。嫌ですね。今日は雨の日だから、私からささやかなプレゼントです。」 準は今日こそちゃんとプロポーズする為に昨日から指輪を買っていたのだ。
準は手際よく、カウンターの前に指輪を置いた。
「これって。」
「そうです。亜矢子さん。私と結婚してください。」外は相変わらずザァザァと雨が降っている。店内まで音が響いていた。
亜矢子が指輪の箱を開け、取り出して薬指にはめた。
「喜んでお受けします。」指輪をはめた手で準の手を握った。
その時、店内の音楽がよりこからもらったCDになった。
ラブソングで、準も気に入っている。
聞いた人が元気になるような曲だが、ジャズのような、バラードのような、ロックのような歌は、よく分からなかった。
よりこは、今ブレイクしてて、人気がある歌だと言った。
その歌を聞いて、亜矢子が呟いた。
「私、この歌っている人知っているわ。歯医者の常連なの。」
「うそ。それはすごいね。どんな人なの。」
準と亜矢子は、今まで出会った人について語った。
すれ違う人。学校の先生。歯医者。高校生。バンドの人達。BARのマスター。どの人も私には確かに必要だった。
いつでもどんな時でも人が助けてくれる。
私がいるのは、いろんな人が助けてくれたから。
これから出会う人もきっと意味がある。
人は出会い。別れ。再会をするたびに成長していく。
これからも、生きてさえすれば、人とまた巡り会って、再会するだろう。
それが人生だ。
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準は、ビシッとしたスーツに身を包んで、よりこの成人式に出席していた。
三年前の約束を果たすためだ。
文化センターの館内は広く、千人くらいの成人がこの日を迎えていた。市の偉い人が何人か挨拶があった後、よりこが成人代表でスピーチをしている。
振袖を着ているよりこは、読者モデルのように綺麗だった。
挨拶が終わると、市長が礼をして、よりこがステージから私たちの方を見て、微笑んだ。
細身のよりこの惚けたような仕草は、高校生の頃と変わっていなかった。よりこが笑うと式典がもっと華やかになるような感じがした。
昔からこの笑顔がたまらなく愛しかった。
式典が終わり、よりこが同級生達と話しをしている。その中でも一際目立っていた。
準が近寄って話しかけようとすると、先に茶髪の男がよりこの隣にいて、楽し気に話しをしていた。
それを見て、時間が経ちすぎていた事を悔やんでいた。
準がボケッとしていると、振袖を着ているよりこが目の前に佇んでいた。
「先生。来てくれたんだ。私、代表で挨拶したんだよ。」
「あぁ。隅っこで見てたよ。よりこ綺麗になったな。」
「ありがとう。私やっと大人になった。」よりこは、うっすらと目に涙をためていた。隣にいる茶髪で白いスーツを着ている男がハンカチを渡した。
準は、やるせない目でその光景を見ていた。
「先生。私ね。とっても今の彼氏が大好きなんだ。だから。」
「それ以上言わなくても分かっているよ。彼氏を大事にしろよ。」
「私、先生には感謝してるんだ。本当にありがとう。」隣にいた彼氏が肩を抱いた。彼氏が「よりこ泣くなよ。」と小さな声で呟いた。
よりこが泣くと、華やかな式典が葬式のように暗くなっていくようだった。
準は明るい笑顔で手をふって二人を見送った。
館内の桜はまだ咲いてはいない。いつ頃に満開になるのだろうかとぼんやりと桜の木を見ていた。
小さな蕾を見ていたら、「ガンバレ。」と応援していた。なんだかせつなさが込み上げてきた。
二人はこれからどう過ごすのだろう。
私はこれからどうやって過ごせばいいのだろう。
約束なんてしなければよかった。
準は家に帰り、少し仮眠をとって、BARの看板の電気を点けた。
どんなに辛い事があっても店は開けなければならない。準は、辛い事を心の奥底にしまって、今日も気持ちを込めて挨拶をする。
「いらっしゃいませ。」
そんな春が終わると、生暖かい風が吹いて、雨が降ったり止んだり、また降ったりするジメジメとした梅雨になるのだった。
BARの街灯が雨で濡れ、さらにぼんやりとしている。
こんな日にくる客は、おかしな酔っ払いか。常連の客しか来ない。
「いらっしゃいませ。」BARの開くチリンチリンという音が響いた。
「外、雨で嫌になるわね。」透明の傘をたたんでカウンターの席に着いた。
「本当。嫌ですね。今日は雨の日だから、私からささやかなプレゼントです。」 準は今日こそちゃんとプロポーズする為に昨日から指輪を買っていたのだ。
準は手際よく、カウンターの前に指輪を置いた。
「これって。」
「そうです。亜矢子さん。私と結婚してください。」外は相変わらずザァザァと雨が降っている。店内まで音が響いていた。
亜矢子が指輪の箱を開け、取り出して薬指にはめた。
「喜んでお受けします。」指輪をはめた手で準の手を握った。
その時、店内の音楽がよりこからもらったCDになった。
ラブソングで、準も気に入っている。
聞いた人が元気になるような曲だが、ジャズのような、バラードのような、ロックのような歌は、よく分からなかった。
よりこは、今ブレイクしてて、人気がある歌だと言った。
その歌を聞いて、亜矢子が呟いた。
「私、この歌っている人知っているわ。歯医者の常連なの。」
「うそ。それはすごいね。どんな人なの。」
準と亜矢子は、今まで出会った人について語った。
すれ違う人。学校の先生。歯医者。高校生。バンドの人達。BARのマスター。どの人も私には確かに必要だった。
いつでもどんな時でも人が助けてくれる。
私がいるのは、いろんな人が助けてくれたから。
これから出会う人もきっと意味がある。
人は出会い。別れ。再会をするたびに成長していく。
これからも、生きてさえすれば、人とまた巡り会って、再会するだろう。
それが人生だ。
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