お母さんの健忘症
家の母と父の一日は、新聞を読むことから始まります。
購読している新聞だけでも4種類ほどで、いろいろな新聞を見ます。だから1ヶ月過ぎると床の隅には新聞紙がうず高く積み上げられます。この新聞紙は古新聞を集め細々と生活をする町内の老夫婦に持って行ってもらいます。
「これは、いつもありがとうございます。」
「いいえ、おじいさん、気にしないで。」
雪が降った冬のある日のことです。家族みんなで、町で外食をすることにした日だったのですが、何かのせいで母はそわそわと落ち着かず、時計ばかり見ているではありませんか。急用ができたから先に帰らなければならないと言って、食事には手もつけず急いで帰ろうとしました。
「洗った布巾を煮沸しようとガスの火をつけたまま来てしまったのよ。私、先に、帰るから、あなたは子供たちとゆっくり食べて来て。」
すると、父は私に母についていくように言いました。
「ならば、スヒ、お前が母さんと一緒に行きなさい。」
「えっ。私が。」
おいしそうな食事の匂いが私を誘惑しましたが、仕方なく母に従ってタクシーに乗りました。久しぶりの外食を台無しにした母に対する恨めしい気持ちは家について解けました。家の前には古新聞を集めるおじさんとおばあさんが待っていたのでした。その人たちはひどい寒さで凍えた体をなだめながら、1時間近くも母を待っていたのでした。
「本当にすみません。6時ごろと言っておいて私が忘れて外出しちゃって。長らくお待たせしたでしょ。」
「いいえ。そういうこともあるでしょう。」
私は二人の対話で、母が食堂で急に席を立った理由がわかりました。母は老夫婦との約束を守るために、おいしいそうな食事さえもあきらめて急いで家に帰って来たのでした。綿のような白い雪、その雪の中、仲良く話をしている3人、、、。
その日の夕飯に母が作ってくれたラーメンは、世界で一番暖かい心で作った最高のごちそうでした。