地下鉄で見た夫婦
何日か前に地下鉄で見た夫婦の話です。
はじめには二人が固く手を握っている姿が美しく見えませんでした。
妻の手を握って自分のひざの上に置いている夫とか、夫の肩に頭を載せて座っている妻とか情けなく見えました。
「人がこのように多いのに、恥ずかしくないのかしら。まったく。」
若い人ならば礼儀を知らずにそういうことをしたとしても、年をとった大人が真昼間から公共の場所で、愛情を交わしているのを子供たちが見て何を学ぶのかと思いました。
気にしないようにと思っても、どうしても目がそこに行くのはどうしようもありませんでした。夫婦は降りるところになって、やっと握っていた手を離しました。その瞬間、私は見てしまいました。夫の大きな手に隠れていた妻の手を。
女性の手は人差し指と中指がありませんでした。彼女の夫が握っていたのは妻の手ではなかったのです。人々の痛い視線に傷を負って辛い妻の心までもしっかりと握っていたのでした。
私はそんな傷も知らないで、夫婦の外見だけを見て誤解をしていたのでした。妻の不自由な手はもちろん、穏やかでない心まで優しく包んであげる夫。そんな夫の愛を受けている妻の姿から世の中で最も幸福な女性の笑顔を見ました。
