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退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 7

2015-07-20 05:11:29 | 韓で遊ぶ


世の中で一番おいしいラーメン
大学の卒業が目の前に近づいてきて、焦る気持ちがなかなか落ち着くことはありませんでした。
成績が悪く、英語の能力もさほど無く、、、私は、何一つとってもとりえのない就職志望者に過ぎませんでした。ですが、教授の推薦を受けてやっと履歴書を出したところがラーメンの会社でした。半信半疑で志願したところ面接までいった時は、内心自信感が生じました。ですが、固く厳粛な面接の雰囲気にすぐに気後れしてしまいました。その時、面接官が私に質問をしました。
「世界で一番おいしいラーメンがどんなラーメンだと思いますか。」
幸いにも、この質問は私には難しいものではありませんでした。すでに以前から答えを持っていたからです。
「実は、私はラーメンがそんなに好きではありません。」
面接官たちは当惑した表情をしましたが、私は勇気を持って言葉を続けました。
「私の母には、ラーメンにまつわる辛い記憶があるので、子供の頃からラーメンを食べさせてくれませんでした。」
私の母は、貧しさのため花のような青春の大部分を、紡織工場で仕事をして送りました。忙しく仕事をして食事の時間を逃し、いつも伸びたラーメンで空腹を満たしていたと言いました。だから、母はラーメンがすっかり伸びたうどんだと思っていました。暮らしがある程度安定し、やっとおいしくできた伸びていないラーメンを食べて、母は胸が押し付けられ悲しさに泣きました。その後、母にとってラーメンは2度と思い出したくない「貧しさの痛み」のようなものになってしまいました。
「ですが、何年か前に、ラーメンだというと匂いも嫌だと言っていた母が、ラーメンを食べたいといいました。」
母が子宮摘出手術を受けた直後でした。女性にとって子宮は木の根のようなものです。女性としての人生が終わろうとしている母は、再びラーメンを食べたがりました。もう、ラーメンは母にとって貧しい記憶ではなかったのでした。体も心も健康で夢も多かった頃に対する美しい郷愁であり、懐かしい思い出でした。母はずるずるという音までたてて汁までおいしそうに飲みました。
「世界で一番おいしいラーメンが何かとお聞きになりましたでしょ。私にとって世界で一番おいしいラーメンは、思い出の中の伸びてしまったラーメンです。」
私が言葉を終えると固かった面接官の表情に満足そうな笑みが浮かびました。
そうして私の初の職場がラーメンの会社になりました。
コメント
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