妻の父、娘の義父
両家の顔合わせがあったとき、相手方の奥さんに支えられて入ってきたご主人を見た瞬間私は言葉を失いました。
20年前に亡くなった父の姿にそっくりだったからでした。妻は脳卒中の父の看病をして7年も苦労しました。妻の苦労をそばで見てきて、それがどんなに大変なことか、私は良く知っています。ですが、大事な娘が同じ道を歩くかと思うと目の前が真っ暗になりました。私は考えただけで腹が煮えくり返ったのですが、妻は何がうれしいのかしきりにニコニコしていました。
「あ、はい、そうですね。ならば、私が日取りを考えて来ましたので、この場で決めてはどうでしょう。」
すると妻はさっと式の日取りまで決めてしまいました。その日の晩、私はあきれて怒りが収まらず、到底眠ることができませんでした。私がしきりに寝返りを打っていると妻が、催促するように言いました。
「あなた、一体何なの。さっきは一言も話をしないし、何がそんなに不満なの。相手方が気に入らないの。」
妻の問いに、待っていましたとばかりに答えました。
「なら、お前は気に入ったのか。娘が病気の親の面倒を見なければならない羽目になったのに、眠れるか。」
私が声高に言うと、妻はあきれたというような表情をしました。
「な、何ですって。私があなたと結婚した時は、義父さんは動くことすらできなかったわ。なのに、私があなたと結婚すると言ったから、家の父が胸を痛めたそうよ。あなた、そんな家の父の思いは一度でもしたことあるの。えっ、したことあるの。その時、父の胸がどんなに痛かったか、、ううう、、、」
今まで一度も口にしなかった妻の訴えに私は言葉がありませんでした。妻は、確かに妻の父にとっては大切な娘でしたから。ですが私は、妻が父の世話をすることが嫁として当然なことだと思っていました。貧しい家に嫁に行って病気の舅の世話までしなければならない娘を、遠くから見守るだけしかできない妻の父の気持ちは全く考えなかったのです。それに、私は妻の父にちゃんとした孝行も一度もしたことのないダメな婿でした。
妻は今まで我慢していた悲しみを爆破させたのか泣き続けました。
「ううう、、、」
「おまえ、泣くなよ。」
私は、肩を抱いて泣く妻をありったけの力で抱きしめました。私の妻である前に、一人の父の大切な娘であった妻、あまりにも遅くなりましたが、これからでも妻の父の気持ちをなだめるような意味で、妻をより大切にして愛する夫になろうと心に決めます。