母と伯母さん
伯母と実家の母は10歳以上年の離れた姉妹です。
3歳の時に母をなくして、姉の下で育ったようなものだという母。そんな母にとって伯母は母親のような存在だったのでした。それでか、伯母に対する母の気持ちは格別でした。伯母もまた、母を妹以上な存在として半生、世話をしてきたのでした。
母が伯母の病気の世話をすることになったのは2年前、従兄の事業で不渡りを出した時からでした。そのことで従兄は離婚まですることになり、伯母はその衝撃で糖尿病を再発し視力まで失いました。
「お母さん、看病はお母さんのすることじゃないわ。」
「私もわかっているわ。だけど、子供の頃、お姉さんが私を守ってくれたように、今度は私がお姉さんを守ってあげないと。」
誰かの助けがないと一歩も動けない伯母。そのそばをいつも守っている母を見ることは、子供の立場としては少々の腹立たしさではありませんでした。
「あ、腹がたつ。ああしていて、お母さんまで病気になったらどうするの。」
そうやって何ヶ月か過ぎました。ある日、母が伯母から受け取ったという通帳をひとつ、私に見せてくれました。
「お前の従兄の事業がうまくいっている時、まめに小遣いを入れてくれた通帳だと言っていたわ。 薬代にでもしてくれって。 母は、私に、これからこの通帳に小遣いを入れてくれと頼みました。それも従兄の名前で。母の深い気持ちを察した私は感動しないではいられませんでした。そして母に言われた通り、毎月月末になると伯母の通帳に小遣いを送り始めました。もちろん従兄の名前で。
伯母は毎月通帳にお金が入金されると、従兄が入金したのか周辺の人に聞きました。
「通帳、ちょっと見てちょうだい。息子の名前で入ってきたのに間違いないかい。」
「ええそうですね。間違いなく息子さんの名前で入ってきていますよ。」
事情をまったく知らない伯母は、ただ従兄がまた仕事を見つけて送ってくれたお金だと思って、とても喜びました。おかげで健康も良くなり、今は母の助けが無くても食事も上手くでき、一人で歩くこともできるようになりました。今日も二人は 手をしっかりとつないで散歩に行きます。頭が白くなった80歳の姉と70歳の妹が並んで歩く姿は、本当にほほえましいです。姉妹の間のやるせない愛が人生の黄昏期を美しく染めています。