2024年台湾次期総統選の行方【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2023.07.24(liverty web)
台湾の民進党は今年4月12日、早々と頼清徳・副総統を来年の次期総統選の公認候補に決定した。副総統候補は蕭美琴・駐米台北経済文化代表処代表ではないかと噂されている。
他方、同月18日、朱立倫・中国国民党主席は、世間から最も支持が得られる人物を公認候補として決めると述べたにとどまった。侯友宜・新北市長や前回2020年の国民党総統候補だった韓国瑜・元高雄市長を念頭に置いた発言だ。
翌5月8日、第3勢力である台湾民衆党の柯文哲・主席が、次期総統選のための党予備選挙への立候補を届け出た。だが、他に候補者がおらず、そのまま公認候補となっている。柯は前台北市長で、元来、民進党の"グリーン系"だったが、まもなく国民党の"ブルー系"へ転身した人物だ。
そして同月17日、結局、国民党は侯友宜・新北市長を次期総統候補に決めた。
しかし、柯文哲が次期総統選挙に総統候補として出馬すると、ブルー陣営が分裂するので、グリーン陣営(民進党)が有利となる。そこで、柯文哲は国民党と「合作」し、自分は副総統候補として、総統選に出馬する可能性を捨て切れていない。
実は、6月のTVBSの世論調査で、一時、柯文哲が頼清徳と侯友宜よりも支持率が高かった(理由は後述)(*1)。けれども、柯文哲の民衆党は、都市部では人気があるが、農村部では支持が得られず、民進党や国民党に勝つのは難しいだろう。
統一地方選挙と総統選の関連は?
さて、過去、総統選の約1年余り前(かつては1年半前)に行われた統一地方選挙と、その後の総統選結果は、相関関係が見られた。特に、約7割近い人口の台北市・新北市(以前は台北県)、桃園市(同、桃園県)、台中市・台南市・高雄市の市長選はその傾向が顕著だ。つまり、統一地方選挙で勝利すると、総統選でも勝てた。
けれども、前回の総統選では、その相関関係が崩れた。2018年11月の統一地方選挙では、与党・民進党が大敗した。だが、2020年1月の総統選では、蔡英文総統が見事再選を果たしている。そのため、昨2022年11月の統一地方選挙では、与党・民進党が惨敗しているが、だからと言って、来年1月の次期総統選で民進党が負けるとは限らないだろう。
その背景には、総統選は利益誘導型の統一地方選挙と異なり、"トップが今後、台湾をどこへ導くか"という「理念の選挙」になっていることが大きい。
この観点で台湾人の世論を考えると、現時点では、次期総統選で当選する公算が最も大きいのは、頼副総統ではないだろうか。
「#MeToo」運動が政局を左右する!?
ところで、現在、台湾では性被害を告発する「#MeToo」運動が広がっている(*2)。来年に総統選を控える与野党は対応に追われているが、ひょっとすると選挙戦に影響を与える可能性がある。
きっかけは、次期台湾総統選を舞台にした政治ドラマ(ネットフリックスの『Wave Makers~選挙の人々~』)である。
5月末、元民進党職員の女性が、フェイスブックに「ドラマを見て死ぬほど泣いた」とセクハラ被害を投稿した。与党・民進党の元職員がドラマのせりふを引用してセクハラ被害を告発したのを機に、被害に遭った与野党関係者がSNS等で訴えている。
最初に声を上げた女性は昨秋、移動の車中で党と業務上の取引がある会社関係者に体を触られたという。彼女は上司に相談したところ、上司からは「なぜ車から飛び降りなかったのか」「なぜ叫ばなかったのか」などと言われ、適切な対応が受けられなかったという。
6月に入ると、民進党の蔡総統や頼副総統が謝罪に追い込まれた。当時、告発に対し、適切に対応しなかったとして、党幹部が辞職し、総統選と同時に行われる立法委員(国会議員)選挙の候補予定者も出馬辞退に至った。
告発は野党にも波及した。国民党の立法委員がメディア関係者から「キスされた」などと告発されたが、疑惑を否定した。
鴻海・郭台銘の出馬でブルー系分裂するか?
こうしたこともあり既述の通り、TVBSの世論調査では、台湾民衆党の柯の支持率が33%で第1位、性被害の告発が相次いだ民進党の頼は30%で2位、国民党の侯は23%で最下位となった。
特に、侯友宜の人気が今一つである。そこで、鴻海(フォックスコン)の創業者、郭台銘が無所属での総統選出馬を検討しているという。けれども、仮に郭台銘が出馬すれば、ブルー系は更に分裂し、頼清徳の当選の可能性がますます高まるのではないだろうか。
(*1) 6月18日付「選挙7カ月前、2024年総統選挙支持率調査」(TVBS世論調査センター)
(*2) 6月10日付「東京新聞」
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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