植物多様性に合わせたキノコの進化
堀 千明・岩田 茉奈
木材を栄養源として利用するきのこ類を木材腐朽菌と呼びます.きのこ類,すなわち担子菌類,の木材腐朽菌は,大きく白色腐朽菌と褐色腐朽菌に分類されます.
白色腐朽菌は,木材構成成分であるセルロース・ヘミセルロース・リグニンを全て分解できるのですが,褐色腐朽菌はリグニンの分解能力を持たず,セルロースとヘミセルロースのみを分解します.
きのこ類にとってリグニンはあまり栄養にならないため,糖質から構成されているセルロースとヘミセルロースが分解できれば充分です.
このため,褐色腐朽菌から白色腐朽菌へと進化したと考えられていました.
しかし,褐色腐朽菌のセルロース・ヘミセルロース分解能は,いわゆる酵素系ではなく,フェントン反応と呼ばれる反応系であるため,その分解能力は独自に獲得し,進化したものではないかと言う説もありました.
このコラムでは,最近の分子系統解析の結果から,まず白色腐朽菌が出現して,その後で褐色腐朽菌が出現したという報告を紹介しています.
その理由は,まず広葉樹に生える木材腐朽菌には白色腐朽菌が多く,針葉樹に生える木材腐朽菌には褐色腐朽菌が多い,という視点から考察されています.
すなわち,まずセルロース・ヘミセルロース分解能を持った菌類が,リグニン分解能力を獲得し,広葉樹のみを分解する白色腐朽菌が出現した.その後,広葉樹を分解する褐色腐朽菌が出現し,さらに針葉樹に生える褐色腐朽菌へと遷移した.
一方,白色腐朽菌では,針葉樹を分解する白色腐朽菌から広葉樹をも分解するようになった.
その後,樹木は被子植物(広葉樹)が爆発的に種数を増やしたため,それに適応する形で白色腐朽菌が勢力を増した.
そうすると,針葉樹を分解できる白色腐朽菌は,木材腐朽菌の原種に近いということでしょうか?
それから,褐色腐朽菌のセルロース・ヘミセルロース分解系であるフェントン反応はどういった形で獲得されたのでしょうか?
一方,白色腐朽菌はフェントン反応系を持っていないのでしょうか?
まだまだ謎は深まっていきます.
○堀 千明・岩田 茉奈 植物多様性に合わせたキノコの進化
生物工学会誌第96巻(2018年)第12号 708
◇参考文献
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高橋旨像 木材の腐朽型,その木材保存処理への活用 木材研究・資料 (1986), 22: 19-36
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吉田 誠 腐朽メカニズムの概要と研究の展望 木材保存 2018 年 44 巻 3 号 p. 172-175
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堀 千明, 五十嵐 圭日子, 鮫島 正浩 木材腐朽担子菌のゲノム・ポストゲノム解析から植物細胞壁と分解酵素の共進化を考える 化学と生物 2015 年 53 巻 6 号 p.381-388