カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

この映画世界の耽美さに酔え   ドラゴンタトゥーの女

2012-12-13 | 映画

ドラゴンタトゥーの女/デビット・フィンチャー監督

 改めて確認させられたのは、僕自身がデビット・フィンチャーのことをものすごく好きなんだということだった。お話が面白いというがこの映画の最大の魅力としても、しかしその展開の仕方、映像の美しさ、カットや細部の小物に至るまで、本当に素晴らしい出来栄えの映画ではないだろうか。自分で撮るなんてとても無理だけれど、一部でいいから真似して撮ってみたいと思わせられる。
 原作にあるのかは知らないけれど、場面場面で出てくる家具であるとかバッグであるとか、そういうものでさえスタイリッシュに見えるところが凄いと思う。表現にしても、冷蔵庫の上においてあるビンが滑り落ちそうになるのを受け止めてまた同じように冷蔵庫の上に置くなど、いつの間にかその部屋での生活に慣れて行っている事が自然と分かる仕掛けなんかがあって、本当にさすがだなあと思う。多くの情報が詰め込まれているのに、ざっくり説明を省いて刻んでいるソリッドな感じも心地いい。気を抜くと置いて行かれるのだけれど、かまわずどんどん進んでいく。時間的には最近の映画では長いものだけれど、まったくだれることも無く身を委ねることができる。映画を観たという満足感に浸れるだけでなく、観終わった後も、リアルな風景さえ変えてしまうほどの印象を残す力を持っている。
 個人的には残酷な表現というのは苦手である。フィンチャーに暴力はつきものだが、その猟奇的な残酷描写においても見事な表現になっている。非常に恐ろしいという感情を揺さぶられるし、後味の悪い気持ちの悪さも残る。そうではあるが、ちゃんとカタルシスはあって、残酷の処理が上手い事も分かるはずだ。激しいものを受け入れられるように、同じく残酷な表現を使って納得させられるのである。人間の感情の中の残酷な欲求を、上手く満たす方法を知っているとしか言いようがない。
 主人公の一人であるリスベット役のルーニー・マーラーという女優が本当に素晴らしい。この役の造形は、ハンニバル・レクターの女性版というような感じで、歴史に残ったのではないだろうか。実際のこの女優さんはリスベットのような感じではなさそうなので、この役のイメージだけで生きていく訳ではないのだろうけど、事実上二役を見事に演じきっていて、このキャスティングだけでもこの映画の価値は高いと思う。
 表現のきつさもあって万人に解放されることが難しいかもしれないが、このような映画は、間違いなく名作として後世に残ることになるだろう。続編があるらしいが、この一本だけでも完成度は高い。もちろん、これを見せられたら、続きには期待が高まらざるを得ないが…。
 実は借りている間、この映画を二度観た。一度目は気持ちよく酔っ払いながら。二度目は個人的な事情があって、気分的に落ち込んでいる時に。映画を観ている間は、この世界に没頭出来るので、気分的に本当に楽になった。決して気分が楽しくなるような映画では無いのだけれど、少なくとも僕のような人間を少しばかり救ってくれる作品だったとも言える。この映画が同じように好きな人たちが大勢いることと思うが、それらの人たちと僕とは確実につながっていくような気がする。その様な気分を共有してもらうためにも、フィンチャー・マジックを、是非楽しんでもらいたいものである。
コメント
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