アラスカの巨大カレイ(ハリバット。または日本ではオヒョウとも言われるらしい)釣りのドキュメンタリーを見た。とにかくでかくて、畳一枚分という表現もまんざら嘘では無い。100ポンド(45キロ以上)を超える重さのものがざらに釣れるようで、日本の釣りではちょっと考えられない世界であった。
釣りで有名なその場所の商工会議所では、釣りチケットを発行しており、このチケットを買うことで、そのシーズンで一番の大物を釣った人には懸賞金が当たるシステムになっていた。一等賞金は例年数百万になるようで、参加者次第ではあるけれど、だいたい五百万といった賞金をもらえるチャンスがある訳だ。
ドキュメンタリーのシーズンでは、春先にドカンと大きな記録が出て、なんと352ポンド(160キロあまり)という大物が釣りあげられていた。皆この大きなハードルに向けて釣りを楽しんでいる訳だ。さすがに300ポンド越えのものはそんなに出る訳ではないようだが、それでも毎日のように超大物はあがる様子だった。巨大な量りに吊られた大物の計量をみて、人々は大いに盛り上がっているようだった。何しろこれくらいになると甲板に持ち上げるだけでも一苦労で、だいたい何ポンドという予想は出来ても、正確に量るなんて船上ではとてもできそうにない。第一大物を釣り上げる前には、拳銃でハリバットを撃って最小限暴れないようにしなければ、人間の方が大けがをするという大変なものだった。畳が暴れたらさすがにどうしようもないのだ。
そうした中でついにこのシーズンの新記録を樹立する大物があがった、というニュースが駆け抜ける。しかし計量現場に来てみると、釣りあげた本人という人が浮かない顔をしている。記録の方は確かに354ポンドと数字が出ている。では何故?
実はこの人、何故か釣りチケットを買っていなかったのだというのだ。釣り大会に参加していることにはならず、あえなく対象外ということになったらしい。聞くところによると、毎年チケットを買っていたのだけど、今年に限って何故か買っていなかったのだという。奥さんに電話していたけど「間抜け!」とだけ言われたらしい。大物を釣ったという名誉はどこへやら。さらに五百万円のチャンスもふいになってしまった。結局そのシーズンは352ポンドが優勝を飾り、文字通り間抜けな男として歴史に残ることになった。
まあ、僕はこのような男を好ましい奴だと思いはするのだけど、どのみち無理だとせこく考えていたのだとしたら、やはり「間抜け!」だと言わねばならない。
ところで年末宝くじをどうするという話を巷間ではよく聞くのであるけれど、僕は当然のように宝くじは買わない。そうすると六億が欲しくないのか? と言われることがある。いや、六億は欲しくない訳じゃないが、宝くじに参加したい気分にならないだけなのかもしれない。ハリバット選手権のようなものなら必ずチケットを買うはずだと思うのだけど、宝くじは駄目だというのは何故なのか。
時々宝くじの券を景品などで頂戴することもあるんだけど、当選番号さえ確認したことも無い。だから当たることにも興味がないらしい。いや、見てもよかったのだけど、見ることも持っていることもすぐに忘れてしまうのだろう。
宝くじは当たることの期待こそが楽しみで買うものだと思う。まさに人々は夢を買っている訳だ。釣りチケットにもその様な側面はあるにせよ、やはり競技を楽しむオマケのようなものだと思う。僕は競技を楽しむ仕掛けには参加したいと思うが(実際には遠いので参加しないだろうけど)、夢自体を買おうとは思わないということかもしれない。実に夢の無い男だということになるが、まあそうなんだろう。
という訳で、宝くじが10枚買えるお金を持って、酒かなんかを調達しようかな、というのが本音。今夜の楽しみの方が、僕にはウェイトが大きいというだけの話なのだかもしれないのだった。