ツボワムシという微生物がいる。大きさは0.3ミリ程度。名前の通りツボのような殻を持っている。繊毛を使って泳ぐのはもちろん、水流を作り、植物プランクトンを食べる。口の中に咀嚼器があり、食べ物をつぶして食べる。食べかすは排出する。多くの小魚が好物として食べるらしいが、ツボワムシは繁殖力が極めて高い。普通一日に2倍、一週間で100倍の数を増やすという。毎日卵を産み、生まれた子供は二日でまた卵を産むようになる。餌が豊富など環境がいい時は、生まれるのは雌ばかり。だからこそ急激に数を増やすことができる訳だ。
ところが餌が減ってきたり数が増えすぎたりすると、雄を宿す卵を産むものが出てくる。そうやって生れ出たオスは咀嚼器を持っていない。胃や腸なども無い。つまり食事をしない。ひたすら泳ぎ回り雌と交尾する。
そうして交尾した後に生まれる卵は、茶色く硬い殻をもっている。この卵は気温の変化にも強く、乾燥にも耐えられる。そうして水中の環境が良くなるまで、孵化するのを待っているのである。
一つ目の卵は、自分自身を二つに増やすような役割。二つ目は、オスを生むため。三つ目は、次代が生き残る為。同じ種類が3種の卵を産み分けるのである。
僕は人間のオスだから二つ目の卵にはなんとなく悲しみを感じるが、しかしながら飯を食べない訳では無いから、いくぶん幸福である。まあ、生物のオスとしての役割というのは、基本的に本生命の補佐的な多様性の為の担保のようなものなのかもしれない。あまり意味のある存在で無いからこそ、虚栄を張るオスというのは人間には多いのかもしれない。