カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

国民的歌姫が、反政府シンガーになる

2021-06-08 | net & 社会

 マイ・コイという名前のベトナムの女性シンガーのドキュメンタリーを見た。
 マイ・コイは元々シンガーソングライターとして歌ってはいたが、なかなかヒットに恵まれなかったらしい。そういう中、祖国ベトナムを美化した曲を出したところ爆発的なヒットを飛ばし、国民的な歌姫にまで舞い上がることができた。そうして成功を収めていたのだが、今度は共産党政権下のベトナムにおいて、もっと表現の自由を求める歌を歌うようになり、これが政府の逆鱗に触れ、反政府的だとしてマークされるようになる。ますます不自由を感じて欲求をためるようになり、米国の大統領がベトナムに訪れた時に、外国メディアの目に触れるように横断幕を掲げて抗議のような意思表示をし、さらに秘密警察に踏み込まれるなど、危険な立場に追い込まれていく。公的な活動の場は失われていく中、さらに自由な表現の歌を収めたアルバムを制作・発表するに至るのだったが……。
 圧政の中、真の自由を求めて、国民的に人気のあったスターが葛藤しながらベトナムの自由のために戦っているという内容である。基本的にはそうだが、政府が怖いのかどうか分からないが、一部の賛同者しか見当たらない。このドキュメンタリーのクルーは外国のもののようだし、マイ・コイの夫は外国人のようだ。結局当局に捕まる危険を恐れて、国外に逃れて活動するに至ったようで、そこで賞を受けたという結末で終わる。東南アジアなどの事情もあるかもしれないし、特にベトナムは共産党独裁の国ではある。実際に投獄された別の先輩シンガーも出てくる。表現の内容によっては、それなりに危険であることは確かなのだろう。また、このような活動は、現在の香港などを含めた、世界的な潮流の一つであるというとらえ方もされているのかもしれない。
 そういう意味では、なかなかに感慨深い内容ともとれるのだが、やはり何か、西側の活動家の影も感じられたのである。このような絶対的な正義が守られていない国というのは、まだまだたくさんあるというのはそうだろう。民衆は恐れずに声を上げて、そのような窮屈な社会を変えるべきだ、という思いは強いのかもしれない。そうしてそのような圧政の中で犠牲になっている人々を見殺しにするわけにはいかない。
 ただしかし……、と同じアジアンである僕は考えてしまう。日本はそれなりに自由があるが、まだまだタブーも存在する。場合によってはそのために捕まる可能性もないではない。ましてや他のアジアの国ではどうだろうか、というのは、見渡せば、もっと大変だというのばかりのようにも感じる。そうしたことは由々しき問題だと思うものの、では西洋諸国の問題のように、単純に遅れた不自由さなのかというと、やっぱりちょっと事情そのものが違いすぎるとも思う。そもそもデモのようなもので自由を主張することで、政府がやっと動くような政治というものこそ、いったい何のための選挙を経た政治なのかという気もする。まあ、本当にベトナムのことを知っているわけではないから、簡単に物事を判断するわけにはいかないにせよ、それで得た自由こそ、本当に大衆が今欲しているものなのかという気もしないではない。物事には段階があるように思えるので、そういう機を熟させるものこそ、必要なのではあるまいか。もっとも一人であっても、やりようによっては信念で動くべきだとは思うが。
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