みずうみ/シュトルム著(岩波文庫)
他4篇を収める短編集。140頁余りの薄い本である。著者のシュトルムは1811年生まれで、ドイツのあるまちの弁護士だったり知事だったりした人らしい。それでこれも名作として残った作品なんだろう。
まず表題作のみずうみだが、幼馴染の関係で年下の女の子との子供時代のささやかなやり取りの描写から始まり、主人公は学生になって遠くの町に離れてしまう。時折故郷に帰ってくる折にもエリーザベトと再会し、幼友達から恋へと二人の仲は静かに変貌している様子が見て取れる。もう一つ越えて告白に至る直前にまで至るけれど、それは学生生活に戻る直近のことで、結局その後手紙のやり取りもしないのだった(これは何故なのかわからない)。そうして月日は流れ、家からの手紙でエリーザベトは地元の親友と結婚したらしいことを知る。さらに月日は流れて、ある時帰省して親友のみずうみの側の家を訪れ、エリーザベトと再会する。
一定の格式のある文章で、後に老人の回想であることがわかるが、読んでいて僕にはちょっと意味がよく分からないのだった。しばらくしてこの意地の悪いような叶わぬ恋だったものが、主人公の、そして叶わぬ恋の相手の、青春のすべてだったのだ、ということが分かったが。そういう叶わぬ関係だったからこそ、美しくも永遠のものだったかのようだ。
他の作品も似たような回想ものがあり、時代を超えての恋の思いというのは、改めて強いのだということがわかる。それも年を取った人間だからこそ、そういう思いを強くするということかもしれない。当時の強い思いがありながら、その当事者は、やはりその状況がよく分からないものなのかもしれない。
なんでこの本を買ったのかさえ記憶にないが、手に取ったら短いので読んでしまったという感じかもしれない。昔の文だし、翻訳だから、なんとなく格式は高いが状況がよく分からない。詩などが途中に入ったりして、まじめなのかふざけているのかよく分からない。そういうのが昔の良いところだけど。でもまあ、なるほど妙なエピソードは考えてみると真実かもしれないという気もする。小説は作り物だけど、時折事実より真実めいたことが起こってしまう。そうしてそういう話が、時を超えて残るということなのだろう。