カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

社会実験ベーシック・イン・カム(でも誤解)

2022-02-04 | culture

 ウガンダの200人くらいの村の住人一人一人に(子供を含む)、毎月一定額を二年間にわたって支給する。これをベーシック・イン・カムの社会実験として行うとどうなるか。という内容のドキュメンタリーを見た。他の町から離れた環境の孤立した村のようで、人々の生活は貧しい。ほとんどは農業のようだが、狩猟採集のようなことをやっている人もいるんだろうか? とても普通の現金収入で暮らしている風ではないが、まあ、なんとか村の集落の仲間たちは、それなりに協力して暮らしている様子だ。さらに子供たちが通う学校はあるようだ。
 最初はこの試みに懐疑的で、怪しい陰謀の組織が陰にあるらしいという噂が立ったようで、この金を受け取らないという男たちが複数いた。単にお金をくれるというのは、確かに怪しいことかもしれない。政府関係者などが説明に来たが、いくら社会実験とはいえ、二年間もただ毎月金をくれるだけのことの、何が実験になるというのだろうか。
 かわいそうなのはそうして受け取らないと言い出した伴侶のある女たちである。彼女らは貧しい生活の中、のどから手を出しても現金を手に入れたい。お金をもらったから誰かが死ぬなどよく分からないことだし、目先の生活のことを考えると、受け取れたらありがたいに決まっているではないか。
 そうして最初の一時期、貰う人と貰わない人が少しばかり分かれたのかもしれない。貰った側の映像がしばらく続き、生活が変わっていく様が、だんだんと見て取れるようになる。子供の着る服が変わり、学校の溜めていた学費を払うようになる。食料を買い、鶏などの家畜も飼う。中には少し貯めて牛を飼う人も出てくる。畑を広げ、木を植えよう(湿地帯らしく、それに何か意味があるのかもしれない)という動きも出てきた。そうして借金して新しい家を建て始める人も出てきた。
 いつの間にかお金を受け取らないという人々はいなくなったようだ。誰も死ぬことはないし、あれは単なるうわさだと理解したようだ。男は金を貰っても飲んでしまうだけだ、と言われたが(そういうこともあるかもしれないが)女たちは子供たちの分まで支給を受け、かなり豊かになった。資金収支の報告をすべきではないか、などと男たちから言われるが、内容を安易に話す気など無いようだ。
 つまりもらったお金を計画的に使うような習慣に、だんだんと女たちは変わってしまったのだ。借金を返し必要なものを買うと、次には将来のために貯蓄するし、売り物になる家畜を買い増そうと考えているものもいる。お金があることで将来に何をするかという目標ができていくということのようだ。そうして、人間として生きていくためにはお金が必要で、それは将来にわたっても恒久的に入ってくるような仕組みにしなくてはならない。そのために自分たちは働いていくのだ、というのが一応の物語の結びになっていたように思う(概ねではあるが)。また、村には外から通える新しい道もできた。これでこれまで徒歩でしか抜けられなかった移動も、さまざまな乗り物で移動できるうえ、大量の物資も運ぶことができるようになるだろう。村は孤立から逃れ、新たな資本世界の暮らしを享受することができるのだ。
 この社会実験が小さな村の人々の暮らしを変え、かなり成功したお話であるように構成されていた。実際このように成功する貧しい町はあるのだろう。
 そうなのだが、これがベーシック・イン・カムなのか? というと、僕にはちょっと違うんではないかな、とも正直に感じた。そもそもこの村は貧しすぎて、現金という収入が不安定だった様子である。おそらく国の生活保護にあたる現金給付による保護世帯対象になるのではあるまいか。それはベーシック・イン・カムではなく、基本的にそうされるべき給付金だ。だから二年間で切るべきものではないし、さらに様子を見るべきだろう。他の村がどうなのかまでは分からないが、ウガンダという国が国民にある程度生活保障をすると考えているのであれば、もっと豊かな地域に至るまで、現金給付の範囲を広げるべきだ。そうしてやっとベーシック・イン・カムの社会実験になりえたのではあるまいか。
 とまあ、そういう意味で実験は不十分に見えるが、貧しさからの脱出は、ある程度の給付にある。そうしてその村に頭割りに給付するというやり方は、案外うまくいく方法かもしれないとは示唆されている。貧困の程度をあまり厳密に割り振らない方がいいのだ、という理屈には、いくらか根拠を与えるものにはなりうる可能性はあるのかな。ベーシック・イン・カムってホントにやると、結構面白そうだけど、日本ならどうするんでしょうね。ぜひ実験でいいからやって欲しいものであります。
コメント
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