マチネの終わりに/西谷弘監督
原作小説は平野啓一郎。これは今ぼちぼち読んでいるところ。つれあいは映画館で観たというのを、僕はネットで遅れて観ることにした。
ギタリストのコンサートの夜に劇的に出会う二人の恋愛劇である。ギタリストの男は国際的にも著名な人物で、独身。女性の方も独身ではあるが、婚約者がいて、結婚間近のタイミングで出会ってしまう。いろいろあるのだが、国際的に活躍する二人であり、ヨーロッパなどでお互いの都合を合わせて会うよりない環境である。お互いに惹かれあっていることは十分にそれぞれ理解しており、困難はあるが気持ちを整え直し、会うことができれば関係が深まることは間違いなさそうだ。そういう中にあって、彼女が帰国するタイミングでギタリストの師匠が倒れてしまい、病院に行くことからすれ違いになって……。
恋愛物語だが、一筋縄でいかない環境に、お互い置かれている。一人は芸術家なので、自分の演奏と向き合うことに、非常に苦悩を感じている時期でもあった。人々を感動をさせる技能を持ちながら、自分では納得がいかないスランプに陥っている。しかし、そういう微妙な音楽の世界のことを、彼女だけは理解してくれている様子だ。彼女は国際的に活躍する記者で、中東でテロに巻き込まれてしまう。あわや死ぬところであった強烈な体験が、どこか心の傷のようなものとして混乱させられている。婚約者に何も問題はないしいい人なのだが、それ以上にギタリストに心惹かれている自分にも混乱している。そういう心理のやり取りが、他の人間関係と錯綜して、二人を迷走させていくことになる。
正直に言ってちょっと頭にくるようなことが起こるのだが、これも恋愛には起こりうることである。好き会う二人の問題が一番のはずだが、そういうタイミングで、別の思いが強く作用することが起こるのである。もちろんこれは小説であり映画なのだが、思いを遂げるために人が動けば、その周りの空気までかき乱すことがあるせいだと思う。この二人はかなり特殊な境遇の特殊な個性のある人たちだけれど、だから観るものの興味を引くとはいえ、何かドラマとしては、ちょっとした普遍性のあるものではないか。いや、厳密には流れがやはり特殊ではあるけれど……。
キャストも福山雅治と石田ゆり子で、何かこの設定と非常に合っている。ちょうどこんな人がいたんだな、という空気感がある。彼や彼女はふつうにモテる人で、恋愛になんか苦労しそうにはないはずだ。むしろ絶対的な優位者同士である(実際は知りませんが)。それでも運命や悪意に翻弄されてしまうのである。そういうことに抗えないのである。
面白いというのではないかもしれないが、はるかに違う人たちの恋愛劇でありながら、共感できる大人の恋がある。僕なら受け入れられないのは間違いないが、仕方ないのである。それが人間が生きている時間、というものなのだろう。