MINAMATA-ミナマタ-/アンドリュー・レヴィタス監督
従軍カメラマン、または報道カメラマンとして著名だったユージン・スミスが、水俣を撮った逸話を映画化したもの。カメラマンとしては超一流の芸術センスを持っているユージンだが、性格はかなり破天荒だ。演じているジョニー・デップが老齢になり、かなり本人になりきっている。僕は以前にユージン・スミスのドキュメンタリーを見たことがあり、本人の姿は知っていた。実は全く違ったタイプの人間のように思っていたのに、よく似ているように感じられて意外だった。さすが俳優さんである。また、水俣のことを知らなかったわけではないが、ユージン・スミスはどちらかというと、先の戦争や沖縄でも有名という先入観があった。これを観て再度ミナマタのことをググってみたが、この映画の通り、当時通訳をしていたアイリーン(のちに結婚)と発表した写真は、大変に素晴らしい上に、評価の高いものだった。
水俣病に関する様々な記録は残っているが、実際この映画のように活動家による圧力で、社会悪である会社が折れた重要な歴史の始まりの例と捉えることが出来るだろう。そのある意味で成功の要因に小さくない貢献をしたのが、ユージン・スミスの写真であると言える。そうして実際にこのようにして写真が撮られたのだという、再現フィルムとしての意味も大きいのではないか。もちろん商業作品でフィクションだが、様々な圧力や妨害のある中で、この凄まじい現実を捉える写真が生まれたのである。その当時ユージンは、はっきり言って落ちぶれていたというか、たいへんに難しい立場にあった。それでも自分の変人ぶりは変えることなく、水俣にのめりこんでいった。そうして人生の最後の仕事として、おそらく永遠に残るであろう傑作写真を残すことに成功するのである。それは悲しい現実とまじりあった結果であるわけだが……。
ある程度は知っているはずのことだったが、改めてこのようなドラマで後追いしてみて、そうしていまだにすべて終わったとは言えないことを思うと、今の時代にこの映画が再度つくられたという事に関しても、意味が深いとも考えられる。そういう姿勢を無くさないことでしか、未来は切り開けないことなのかもしれない。日本の俳優陣も頑張っているので、そういう意味でも見どころは十分である。これは多くの人に観られるべき作品であろう。