仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

その坂を上って4

2010年11月26日 16時51分41秒 | Weblog
 第二「ベース」の構想は唐突に始まったわけではなかった。市川の「ベース」の周りは工場団地ができていた。市川市と千葉県の思惑が一致して、工場団地の拡充の計画が持ち上がった。そこで、いままで一度も連絡なかった大家さんから、直接電話が来た。市からの要請で、用地買収に協力してほしいという申しいれがあり、賃貸契約を期限を切って解消したいというものだった。突然の電話に皆は驚き、悩んだ。
 「グリーンベース」の活動が始まり、それなりの収益も上がり始めたときだった。すぐには返答できないと伝え、皆で話し合った。
 
サンちゃんが意外なことを言い出してみんなを驚かせた。
「この辺も好きだけど、実際、作物を作る環境としてはどうかと思うよ。
水も汚れているし、空気もね。無農薬がいいことはわかるけど。
本当は土も水も空気もきれいなほうがいいよ。
僕らがなぜ農業をしているのか。よくわからなかったけど、
ミサキさんのノートを読んでいて、自分が自然なんだって実感したんだ。
植物はそれぞれに力を持っていて、その土地や場所にあったものだけが生き延びていける。
そうして生き延びたものだけが、その生命を僕らにあえてくれるんだよ。
自分で作ってわかったんだよ。
もしできることなら、もっと、もっと、自然な場所に移りたいよ。」
仁が笑いながら、手をたたいた。皆が唖然としているので、場違いだった。が、皆は笑った。アキコの提案はその後から出てきた。
「ここに「ベース」をつくるときね。ふっと、諏訪の父かたの実家のことが浮かんだのよ。祖母が亡くなって、祖父がほとりで耕してるんだけど・・・・。いまどうなっているかわからないけど、一度行ってみたいな。」
また、仁が笑いながら、手をたたいた。
「うん、でも、ここの契約のはどうしようか。」
「すぐに、出て行けっていわれてもなあ。こまるよね。」
「それはないと思うけど・・・。」
そんな感じで話が進んで、とりあえず、不動産屋に話そうってことになった。ところが、この不動産屋が、面白い人というか、なんというか、熱い人だった。
「あんたらには居住権も使用権もあるんだから、がんばって交渉するよ。直接、そちらに話がいくなんて、おかしな話しだよ。本来なら、こちらを通さないと筋が通らないよ。もう、好きなだけ、いていいから。まかしといてよ。あっ、それから、この間、もらったサトイモ、うまかった。今度、お金出すから、また頼むよ。」
しばらくして、不動産屋が「ベース」に顔を出した。
「すごいねー。あの荒れ野原がこんなになっちゃったんだ。」
農場の状況を見て、ほんとに驚いていた。
「もったいないね。こんなにがんばっているのに。そうそう、あの話だけど、すぐ移転しろって話じゃないみたいだよ。お役所のやることだからね。とりあえず計画ができているけど、その際は協力してくれるかどうかの、確認だったみたいよ。ある程度、こっちの事情も考えてくれるってさ。よかったじゃん。」
「それでも、出て行けってのは変わんないんでしょ。」
サンちゃんが突っ込んだ。
「それは・・・・。」
「でも、ありがとう。不動産屋さんは僕らの味方だもんね。」
「はは、はっ、はっ、はっ、はっ。」
少し引きつっていた。