先日、久しぶりに東京に行きました。
3年半ぶりになるでしょうか。
東京には、今の私があるのに欠かせない大切な友達がいます。
高校の同級生で、東京で服飾関係のデザイナーをしている友人です。
私は大学生だったころ、とにかく東京が好きでした。
お金と時間を見つけては東京に遊びに行っていたのです。
彼女の家に泊まらせてもらい、その頃既に働いていた彼女が仕事に行っている間、ひたすら一人で街を歩き回ったものです。
ある日二人で恵比寿で映画を観た後、晩ご飯は家で何か適当に作って食べようという事になり、彼女は「酒買ってかえろう、酒。」と言ってさらっとワイン屋さんに入りました。
さらに彼女は「隣のパン屋のいちじくのパンも買ってかえろう。」と言って高そうなショーケースが並ぶパン屋さんに入って行きました。
あの当時(ひぃ、なんともう15年前)沖縄で、さらっとワイン屋に入る大学生は一人もいませんでした(たぶん)。
メロンパンとかソーセージパンとか全く置いていないパン屋さんで「いちじくのパン、適当にカットしてもらってもいいですか?」と言ってパンを買う大学生も一回も見たことありませんでした(ないない)。
ただ黙って後ろをついて行った私。
「い、いちじくのパンって、何パン?」と思いながら食べたそれは、私の「おいしいもの」の概念をがらりと変えてくれるようなものでした。
今となれば、小麦粉の味がしっかりしている、いちじくの自然な甘さが絶妙、などと感想を並べる事もできるのでしょうが、当時ただただ感じたのは、「いいものってほんとにいいんだ」という素直な感覚。
すいすい口に運んでしまう。まさに体が歓迎しているという感覚でした。とにかくおいしかった!
その感動はその後の私の人生に静かに息づいています。
雑誌などで「ここのパンは食べてみるべし!」と書いてあるのを見て行っても、こうはならなかったと思います。
東京で必死で頑張っている同級生が、「腹へった、早くかえろう」とちょっとだるそうに言いながら買ってくれて、ワインを開けてくれて、トマトを切って出してくれて、お肉も焼いてくれて、「あ、そうそうこれも」と言って出してくれたものだったからこそ。彼女の部屋の優しいオレンジ色の光と共に、あの感動は生きています。
東京で久しぶりに彼女に会いました。
この話をすると、「あれ、ロブションだったんだよ。」と一言。
な、なにーーー!!
ロブションと言えばあの、ジョエル・ロブション。恵比寿に最高峰のレストランを構える、フランスで有数の三ツ星レストランのシェフ。今の私にとっては、神のような人です。
そういえば地下に降りていったような・・・あのお城のようなレストラン、地下にパンやケーキも売っているはず・・・
私が生涯初めて食べたいちじくのパンは、ジョエル・ロブションのパンでした。
そりゃおいしいはずだわ。
なんだかわからないけどとても幸せな気分になり、とにかく彼女に感謝、感謝。
「ありがとう~!かんぱーい!!」
例のごとく、二人で飲んだくれたのでした。
写真は無関係ですが、パリで通るたびに立ち止まってしまう、素敵な路地。
ちょうど仲のよさそうな素敵なお二人が。
皆幸せな帰る家がありますようにと思わず祈りたくなる、そんな風景です。